サッカーのゴール自動判定システムってどうなってるの?
日本でも今シーズンの一部公式戦、YBCルヴァンカップ(旧ヤマザキナビスコカップ)の準決勝以降、Jリーグチャンピオンシップ、天皇杯の準決勝以降で採用することを決定。5月下旬からはJ3で試験的に導入されている。 日本サッカー協会の上川徹審判委員長は「本来ならばJ1の全試合で導入したい」と語るが、ここでネックになるのが人員の確保だ。ヨーロッパではAARに主審を当てているが、今シーズンのJ1担当主審は23人しかいない。日本でもAARに主審を当てるとなると、必然的にすべてのスタジアムに6人の審判団を送り込むことができなくなる。 「J1の主審だけを一気に増やすわけにもいかない。J1の副審でもAARを務められるのか、J2の主審や副審でも大丈夫なのか、といった点を検証していく必要がある」 上川委員長は試験導入の目的をこう説明するが、日本だけでなくAFCにおいても、優秀な審判団を大量に確保するのは至難の業だ。UAE戦のジャッジをカタールの審判団が務めた理由もここにある。 本来ならば東アジアおよび中東でもない地域で、なおかつ日本とUAEが所属するグループBの国以外の審判団が務める。具体的にはタイを除く東南アジアとなるが、残念ながらこの地域にはアジア最終予選レベルの試合をジャッジできるレフェリーが少ない。 そこでグループAを戦う国ならば問題はないだろう、という理由でカタールの審判団が割り当てられた。こうした事情を鑑みれば、GLTだけでなくAARに関しても、AFCが主催するアジア最終予選で採用することは現実的ではない。 GLTおよびAARは2012年7月のIFAB特別会議で承認されている。他の競技と比べてルール改正へのスピード感が乏しい理由は、IFABが「サッカーの判定は人間が行うもの」「審判団のミスも含めてサッカーという試合が成り立つ」という考え方にこだわってきたからに他ならない。 しかし、ボックス・トゥ・ボックスのスピードが桁違いに増している現代サッカーにおいては、審判団にかかる負担は計り知れないほど増大している。こうした流れを目の当たりにするなかで、IFABの姿勢も軟化の兆しを見せている。 今年3月の年次総会で、IFABは2018年3月までの2年間をビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)導入へ向けてのテスト期間とすることを決めた。対象となる判定は「オフサイドか否かを含めたゴール」「PK」「レッドカード」「選手誤認」の4項目で、オーストラリア、ブラジル、ドイツ、オランダ、ポルトガル、アメリカの6ヶ国がテスト国に指名された。 9月1日に行われたフランス対イタリアでも国際試合では初めてビデオ判定が採用され、フランス代表の選手の手に当たったPKの判定が検証の結果、太ももに当たったとして取り消されている。今年12月に日本で開催されるFIFAクラブワールドカップでも試験採用される予定だ。 今年2月に就任したFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長も新たなテクノロジーを導入すること積極的で、IFABによるVARのテストに関してこう言及している。 「ロシア大会が、ビデオ判定が審判の判定を改善する最初のW杯となることを願っている」 テスト期間を2年と位置づけたのも、2年後のW杯ロシア大会を意識しているからだ。中継するテレビ局などと連携すれば、ビデオ判定はGLTのようにコストもかからないし、AARのように人員を大量に確保する必要もない。 試合を裁くのはあくまでも審判、というIFABの考えに沿い、VARがスムーズな試合進行の妨げにならないと実証されれば、早くて2年後にサッカーの歴史を変えるルールが導入されることになる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)