【新刊】同調圧力という閉塞感の中で懸命に呼吸する人々を描く 町田そのこ氏『ドヴォルザークに染まるころ』など4冊
今年も残すところわずか。年末進行であわただしい日々を過ごす人も少なくないだろう。そんなときは、仕事の合間に読書で一息ついてみては? 師走におすすめの新刊を紹介する。
『ドヴォルザークに染まるころ』/町田そのこ/光文社/1870円 来春で廃校になる小学校の秋祭りに関係者が集う。ジェンダーに従順な祖母世代、純粋地元っ子の女性やセックスレスに悩む現役の母親世代、元教師、小説家になった男子卒業生。様々な人々の感情と記憶が渦巻き、25年前に風来坊の画家とともに消えた女教師の消息が知れる最終章で解放が訪れる。下校の合図であるドヴォルザークの「家路」。各人の家路に幸あれと願う。 『おきざりにした悲しみは』/原田宗典/岩波書店/2200円 物流倉庫で働く65歳の長坂誠は隣室の姉と弟が戻らない母親を待って、真夏に電気も水道も止められているのを知る。子供達に得意の茄子カレーを作ってふるまい、冷房のある部屋で休ませ、部屋にあったギターと習字の道具を与えると彼らは天分を発揮し、奇跡が羽ばたき始める。題名は吉田拓郎の曲から。お話の基調は泉谷しげるの名曲『春夏秋冬』。善の連鎖にグッとくる。 『人生の勝者は捨てている』/加藤諦三/幻冬舎新書/1034円 冒頭で健康で幸せな人が持つ5つのLが紹介される。〈Learn〉〈Labor〉〈Love〉〈Laugh〉〈Let Go〉。学び励み愛し笑い、そして手放す。ラジオの電話人生相談の回答者を半世紀以上務める著者が〈Let Go〉の価値を、現代社会に落とし込んで伝える。執着、高い理想、嫌われたくない気持ち、不健康な人間関係。これらを捨てれば自然に笑顔が増え人生は好転すると。肝に銘じたい。 『東京都三多摩原人』/久住昌之/集英社文庫/825円 三多摩とは23区と島嶼部を除く東京市町村部のこと。西に広がる地域だ。三鷹で生まれ育った著者が故郷をもっと知ろうと探索に赴く。幼い頃や青春時代の記憶をつつかれ回想まじりの半自伝の書になっていくのが味わい深い。若くして亡くなった杉浦日向子さんを思い出す青梅線、「ボクの先生」赤瀬川原平氏を偲んで歩く小平。子息との温泉行に世代差を感じて、くすっと笑う。 文/温水ゆかり ※女性セブン2025年1月1日号