<TPP>著作権保護の延長問題って何?
TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)をめぐって日本では主に農業や医療、工業の問題に注目が集まっていますが、文化面で日本に大きな影響を与えると見られているのが、知的財産権関連条項の問題です。そのなかで、とくにアメリカがTPP交渉の場で強く要求してくると思われる項目が「著作権の保護期間の延長」です。 現在日本では、著作者の死後50年(映画は公開後70年)が経過した文学や絵画、音楽などの作品の著作権は消滅し、その後は誰でも自由に作品を利用できることになっています。しかしアメリカをはじめTPP交渉参加国は、保護期間70年の国が約半数を占めています。
コンテンツは「米最大の輸出品目」
日本経済新聞が7月9日に「日本が著作権の保護期間を権利者の死後50年から70年に延長する方針を決めた」と報道したため、「日本はアメリカの要求を飲む方針だ」とネット上で騒ぎになりました。しかしTPPを担当する甘利明経済再生担当相は、記者会見で報道内容を全否定しており、著作権保護期間延長の話は、まだ決定事項とはいえないようです。 アメリカが保護期間の延長を迫ってくると想定される理由について、著作権問題に詳しい福井健策弁護士は「アメリカにとって、コンテンツは最大の輸出品目だからです」と説明します。たとえば、1926年に小説として発表され、後にアニメ化された『くまのプーさん』が全世界で年間に稼ぐ印税は、数年前のデータで1000億円。これは、日本音楽著作権協会(JASRAC)が1年間で稼ぐ著作権使用料と同額といわれています。 「アメリカが海外から得ている著作権等の使用料は、年間約1218億ドルとされます(2012年世銀調べ、特許も含めた金額)。これは現在の為替レートにすると約12兆円で、農産物・自動車を上回る大変な金額になります」
日本には「延長のメリットなし」
一方で、日本にとって、著作権保護の期間延長はメリットにならないのでしょうか。福井弁護士によれば、「期間延長問題に関していえば、日本にとってメリットといえるものはないでしょう」とのことです。 たとえば日本の著作権使用料の国際収支は年間5800億円もの赤字、保護期間が延長されると赤字幅が拡大し、さらに許可が取れない作品や権利者が見つからない作品が激増して死蔵作品が増えたり、古い作品に基づく新しい創作や二次創作ができなくなったりする恐れもあります。 日本は7月下旬、TPP交渉に正式に参加して重要農産品の関税維持などを求めました。しかし、こと知財問題に関していえば、「一国の文化と経済に重大な影響を持つ問題に対し、政府が十分に取り組んでいるようには見えません」と福井弁護士は話します。 「秘密交渉なので情報は開示すべきではないという意見もありますが、流出して危ないのは、まさに今回報じられたような、日本が最終的にどこまで妥協するかといった『交渉カード』の内容です。現在の争点などは積極的に開示して良い。その上で民間の意見も幅広く吸い上げ、何がこの国の文化、情報流通の未来にとって大事なのかという視点で方針を決め、交渉に臨むべきではないでしょうか」(福井氏)。