「恵」不正問題から見る障害者支援の現実「今ある生活を崩したくないだけ」母親が選んだ沈黙という決断
元職員が語る、恵の内部事情
恵の元職員で名古屋市内のグループホームに3年ほど勤務した人に、内部事情を取材しました。恵の場合、グループホームが徴収した利用料は一度本社に集められます。その後、本社から食事代などの経費が各グループホームに分配。元職員によりますと、その額は利用者が支払っていた額の3分の1以下だったこともあるといいます。 恵の元職員: 「(本社の人に)『(経費が)足りないので、ください』と電話で何度も言いましたが、出た人は『私が決めたことじゃない』と。だんだん慣れて、当たり前になってしまいました。(利用者からは)たまには刺身が食べたいな、という話も出ていたので、申し訳ない気持ちでした」 そんな恵では、ある徹底した“経営戦略”が取られていました。
重度の障害者を優先して受け入れる“経営戦略”
障害がある人は、支援の必要度合に応じて6つの区分に分けられています。その区分が高ければ高いほど、サービス提供事業者に支払われる報酬は高くなります。恵は区分が平均4.7になるよう、重度の障害者を優先して受け入れていたのです。この戦略で、24時間体制のサービス支援型グループホームを中心に全国に展開。わずか5年で12の都県に事業を拡大させました。 恵の元職員: 「恵の場合は判定をせずに、きちんと支援できる人がいないところに、たくさん詰め込んでいきます。とにかく満室。普通の人ならたぶん、投げ出しますよね」
重度の障害者を受け入れるためには、介護浴やエレベーターなど、場合によっては数億円規模の初期投資がかかるほか、スタッフの確保も必要です。その数少ない受け皿となっていたのが恵でした。 厚生労働省によりますと、国内のグループホームの数は年々増加。全国のグループホームに「障害者の受け入れ先が足りているか」聞いたところ、中軽度の障害者については「足りていない」と答えたのは2割程度の一方、重度は約4割の自治体が「足りていない」と回答していました。
マックビーヒル就労支援機構のグループホームに密着
障害者を託された民間事業所はどんな思いを抱えているのか。マックビーヒル就労支援機構が運営するグループホーム「まっくびーレジデンス春日井II」で、障害者支援の実態を取材させてもらいました。 就労支援施設での作業を終えて帰宅した、障害支援区分6の利用者。「帰宅後、すぐに入浴する」という日課が守れないと、パニックを起こすことがあるのです。別の作業をしていた男性スタッフが、すぐさま入浴介助に当たりました。