『フォールガイ』エンタメだけじゃない!映画ファン必見のアクション大作
ギネス記録を破る! スタントマンのガッツに火がついた!!
何より本作はアクション映画であり、スタントを題材にした作品だから、リーチ監督はそこに最大の力を注ぎ込んでいる。本作におけるコルトのアクションシーンは大きく2つに分けられる。ひとつは『メタルストーム』の撮影現場で見せるスタント。劇中、現場復帰したコルトは、砂浜を疾走する車の横転という過酷なスタントに挑み、8回転半というギネス記録を打ち立てる。この“ギネス更新”は実際に脚本に書かれていたもので、実際の撮影ではそれらしく見えれば問題はない。しかし『フォールガイ』はスタントマンを描いた映画だ。カースタントチームは発奮し、何度もリハーサルを繰り返して、実際にキャノンロールのギネス記録を更新したというから驚きだ。 もうひとつのアクションは、危機に直面したコルトの悪党との攻防をビジュアル化したスタントで、物語を主に動かすものでもある。ナイトクラブでギャングに奇襲された際の格闘を皮切りに、シドニー市街地で繰り広げられるごみ収集車を駆使した複雑なカーアクション、高所からのダイブなど、スケールの大きな見せ場が次々と放たれる。また、映画のオープンセットを舞台にしたクライマックスでは、距離70メートル、最高度25メートルという驚異のカージャンプが披露される。 宙を舞うヘリコプターからのコルトの落下、通称“ハイフォール”と呼ばれるスタントも見せ場のひとつだ。ハイフォールの達人であるスタント・パフォーマー、トロイ・ブラウンは、この場面で約45メートルの高さから落下して、自己の最高記録を更新。エンドクレジットでは、このときの模様が記録されているほか、スタントの舞台裏の映像が連なっているので、ぜひここにも注目して欲しい。
陽の当たらないところでプロであり続ける映画人への賛歌
これまで説明してきたとおり、『フォールガイ』はエンタメ性に富んだ作品だが、もうひとつアピールしておきたいことがある。それは映画愛に満ちた作品であるということ。主要登場人物はすべて映画界の人間だから、セリフには映画ネタが頻繁に取り込まれている。先述の『逃亡者』以外にも、『真昼の決闘』(52)や『テルマ&ルイーズ』(91)『ノッティングヒルの恋人』(99)『メメント』(00)などが引用され、映画ファンをニヤリとさせる。 そして映画への愛は、映画製作への愛にも直結する。本作の主要な舞台は映画の撮影現場であり、その活気にあふれた様子が生き生きととらえられている。アクションシーンの撮影風景をとっても、カメラが追うのはスタントマンだが、その安全を支えるために多くのスタッフが動いており、一方ではカメラ、録音、美術の周りにも多くのスタッフがいて、的確なショットをものにするために動いている。先述のギネス記録を更新したカーアクションの場面はもちろん、シドニーのオペラハウス前で戦闘シーンが撮影されるシーンからは、“よりよいものをつくりたい”という意思で結ばれた、映画人たちの共闘の熱さが伝わってくるだろう。 「この作品は映画業界の陰のヒーローたちに宛てたラブレターだ。スクリーンで魔法を生むために現場で心血を注ぐ、才能あふれるプロフェッショナルたちに敬意を表している」と、リーチ監督は語る。スタントマンはある意味、裏方中の裏方で、アカデミー賞にもこれを表彰する部門はない。そこからキャリアをスタートさせたリーチ監督だからこそ、この言葉にも重みがある。映画人の情熱を体感しながら、楽しんで欲しいエンタテインメント大作だ。 文: 相馬学 情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。 『フォールガイ』 大ヒット公開中! 配給:東宝東和 ©2024 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
相馬学