『フォールガイ』エンタメだけじゃない!映画ファン必見のアクション大作
旬のスターたちが織り成すラブコメ的妙味
“フォールガイ(=落下するヤツ)”とはスタントマンを指す隠語。主人公コルトはハリウッドのアクションスター、トム・ライダーのスタントダブルを務める腕利きの“フォールガイ”だ。しかし、落下のスタントの失敗により肉体だけでなく心にも深い傷を負い、映画界から姿を消す。18か月後、そんな彼のもとに旧知のプロデューサーから、トムの最新主演作『メタルストーム』への参加要請が。最初は断ったコルトだったが、監督を務めるのが18か月前に捨てた格好となった恋人ジョディであることから仕事を受け、ロケ地のオーストラリア、シドニーに飛ぶ……。序盤の物語は、ざっとこんな感じだ。 主人公コルトにふんするのはライアン・ゴズリング、ヒロイン、ジョディにはエミリー・ブラント。前者は『バービー』(23)で、後者は『オッペンハイマー』(23)で、アカデミー賞にノミネートされたのも記憶に新しい。人気と実力を兼ね備えた、脂ののっているスターの共演は、それだけで魅力を放つ。 物語の根底にラブストーリーがあるのは、序盤のあらすじからも明らか。ヒロイン、ジョディは映画の始まりでは映画のカメラ・オペレーターの仕事をしており、同じ現場で働くコルトとも仲睦まじい。しかし、スタントの失敗に傷ついたコルトは映画界からだけでなく、彼女の前からも何も言わず姿を消した。ジョディはこの失恋をバネにして、『メタルストーム』で念願だった監督デビューのチャンスをつかむ。しかし、コルトはまだジョディを愛しており、この撮影に参加したことから話はややこしくなる。焼け木杭には火がついたというべきか。勝手に消えて勝手に現われたコルトに対して、ジョディはまだ怒っており、過酷なスタントを次々と押し付ける。そんなラブコメ的な展開が楽しい。
主人公が置かれた状況は、あのアクション映画に似ている!?
リーチのこれまでの監督作を振り返っても明らかだが、ユーモアの感覚は彼の有効な武器であり、コメディの要素を多分に含んでいる。加えて、本作にはサスペンスという娯楽味も含まれている。序盤が落ち着くと、コルトはもうひとつの仕事をゲイルからあたえられる。それはシドニーで行方不明となったトムの行方を探すこと。なにしろトムは大スターだから、現場にいなければ撮影が遅れ、製作費の超過も免れない。かくしてトムは夜のシドニーの街に出向き、いかがわしい仲間とつるんでいたというトムの行方を探る。ここから映画は犯罪サスペンスの濃度を増していく。 トムの行方を追ってたどり着いたホテルのバスルームで、死体を発見してしまったことから殺人の濡れ衣を着せられ、指名手配されてしまうコルト。こうなると、もはや映画撮影どころではない。仕事仲間で親友でもあるスタント・コーディネーターのダンに協力を頼み、コルトは無実を証明するため、真相追求に乗り出す。 ともにスタントマンであるダンとコルトのやりとりはユーモラスで、たがいに映画好きらしくセリフに引用が頻繁に飛び出す。たとえば “お前が『逃亡者』(93)のハリソン・フォードなら、追手が来る頃だ”と、ダンが同作で殺人の濡れ衣を着せられた主人公を引き合いに出したり。ダンがあるアクション映画のセリフを言い、それをコルトに当てさせるやりとりもあり、彼らのアクション映画への愛情をうかがわせる。