紫式部が感じ取った「中宮・彰子」が女房たちに抱いた葛藤。要望を話しても女房たちに響かないモヤモヤ
■中宮が女房たちに要望を伝えても響かず こうした中宮の価値観が、「子どものようなお嬢様」(女房たち)にはピッタリで、習い性になってしまっていると紫式部は考えます。紫式部自身はそうした価値観をあまりいいものとは思っていないようです。若干、組織批判も入っていると言えるでしょう。どちらかと言えば内向的な紫式部ですが、これは意外な感想です。 一方で、紫式部は中宮をよく観察していて、最近の中宮は「後宮のあるべき姿や、女房たちの気性、長所や短所、出過ぎたところや至らないところをすべて見抜いている」と記します。
さまざまな経験を積んだ中宮は、女房たちに「もっとこうしてほしい」といった要望があり、時にそれを上臈女房に伝えたりするのですが、女房たちにはいまひとつ響かないようです。「上臈女房の消極的な習慣は簡単には直らない」と紫式部は感じているようですね。 紫式部には、上臈女房たちがお高くとまっていると見えていました。来訪者がやって来ても、しっかりした対応ができないときがあったそうです。 対応に出て、来訪者と顔を合わせることすらできない人もいたようで「実に頼りない子どものような上臈女房」と紫式部は非難しています。紫式部は内向的と書きましたが、さすがにここまでではなかったのでしょう。
(主要参考・引用文献一覧) ・清水好子『紫式部』(岩波書店、1973) ・今井源衛『紫式部』(吉川弘文館、1985) ・朧谷寿『藤原道長』(ミネルヴァ書房、2007) ・紫式部著、山本淳子翻訳『紫式部日記』(角川学芸出版、2010) ・倉本一宏『紫式部と藤原道長』(講談社、2023)
濱田 浩一郎 :歴史学者、作家、評論家