今は自分が“何者”かわからないままでいい――「廻廻奇譚」大ヒットのEveの『呪術廻戦』への寄り添い方
「『ナンセンス文学』という曲を作っていた頃、たまたま見たホラー映画に幼い頃見ていた夢にそっくりなキャラクターが出てきたんです。それで子供の頃のトラウマがよみがえってきた。映画に出てきたそのキャラクターを資料としてMahさんに渡して、それをもとに作ってもらった覚えがあります。自分の中のトラウマを克服するために、可愛く踊らせたり、ああいう形で表現したのかもしれない。結果、愛着が湧いて、今ではすごく好きなものになりました」
「自分の内面を伝えたい」ライブで感じた違和感
音楽活動を始めたきっかけは、高校時代に同級生の友達の家に遊びにいった時のことだ。まだ黎明期のニコニコ動画やボーカロイドに出会い、そこでボーカロイド楽曲の“歌ってみた”動画を投稿する“歌い手”としての活動を始めた。 「それまでパソコンにも触れてこない人生を送ってきたので、自分が知らない世界がすごくキラキラして見えたんです。当時は学校の同級生にボーカロイドのことを話してもほとんど誰も知らないような頃でした。仲のいい友達だけとボカロ曲をシェアして『昨日、こういう曲があがったね』みたいな話をしているときには、自分たちしか知らないものを見つけてしまったような感覚があった。そこにワクワクしていました。その衝撃からどっぷり沼に漬かって引きこもりが進んでいったように思います」 当初はカバーを歌っていたが、2017年5月に公開した「ナンセンス文学」を皮切りに配信シングルでもオリジナル曲をリリースするようになり、ソングライティングの才能が開花していく。同年12月には、同曲を含む全曲の作詞作曲を自ら手掛けたオリジナルアルバム『文化』を発表。現在に至る最初のターニングポイントになった。 「あるとき一人でライブをしたことが自分の中での一つのきっかけになりました。当時の自分は人様の楽曲をカバー、また書き下ろしていただいた曲を歌っていました。お客さんがどういう思いで自分のことを見にきてくれるのかということに、そこで改めて考えるようになりました。もちろん僕自身の声や歌い方を好きで来てくれていたんだと思うんですけれど、そのライブのときにどうしても違和感を覚えてしまった。それまでは他の方が書いた曲をステージで歌ってきたわけですが、音楽を通してその人たちに僕という存在をありのままに伝えていきたい。そのためには自分で曲を作らなければならない。そういう思いが膨れ上がっていって、自分で曲を書こうと思うようになりました」