カッパの髪型を強制、逃げると暴行…10年に及ぶ「支配」の果てに男は包丁を握った 殺人罪で懲役10年
■「復讐心」か「支配からの脱却」か
判決によると、去年10月ごろ、小林被告は被害者から突然100万円の支払いを求められた。分割払いや支払いの延長などを願い出たが聞き入れられなかった。11月4日、小林被告は再び集団で暴行された場合は威嚇するか、場合によっては被害者を殺そうと考え包丁を購入した。 事件当日の11月6日、被害者から呼び出された小林被告はリュックサックに包丁をしのばせ、午後5時40分ごろに事務所を訪れた。2人きりで小林被告の借金の返済について話し合ったが解決しなかった。被害者は「妻に金を持ってこさせろ」「子どもを施設に預けて妻を働かせればいい」と言い放った。 小林被告は我慢の限界を超えたが、自分の家族や被害者の家族のことを考え犯行を思い悩んだ。そのうえで「被害者が生きている限り状況は変わらない」と犯行を決意した。小林被告は小走りで被害者の背後へと近づき、被害者が振り返ったところで脇腹を包丁で刺した。 検察側は包丁が曲がるほどの強い力だったとして「強固な殺意」と主張、「どんな理由があっても被害者の殺害を正当化するものではなく、殺害してよい理由にはならない。復讐心に根ざした突発的ながら熟慮のうえでの犯行」と指摘し懲役15年を求刑していた。 一方の弁護側も「人を殺して許されるわけではない」と小林被告の犯行を批判したが検察側が主張する「強固な殺意」については否定し、「葛藤があるなかで『死んでもしょうがない』という思いでの犯行だった」と主張した。また、「10年間にわたる搾取やいじめを受けてきた」と裁判官らに事情を酌むよう求め、懲役8年が相当とした。 双方の主張に対して裁判所は判決で「長年の不当な扱いから逃れるため、追い詰められた精神状態のもとで被害者が死んでもかまわないと考えての犯行」と弁護側の主張を採用し、「復讐心に根差した犯行とはいえない」と検察側の主張を退けた。
■小林被告の謝罪
判決日のおよそ1週間前の15日、小林被告は自らの意見を述べる最終陳述の場で「被害者の家族にも(自分の)残された家族にも大変な迷惑をかけた。罪を償っていきたい」と述べていた。 判決で裁判所は「被害者の命が失われたという結果は誠に重大であり、被害者の家族に与えた影響も深刻であって、妻が峻烈な処罰感情を抱くのは十分に理解できる」とした。また、「被害者に命を奪われなければならないほどの落ち度があったとはいえず、被害者の殺害を正当化できるものではない」と踏まえたうえで「被告が長年置かれた状況には極めて同情できる部分がある」、「被害者家族への深い贖罪の気持ちがある」などとして求刑の15年を下回る懲役10年を言い渡した。