カッパの髪型を強制、逃げると暴行…10年に及ぶ「支配」の果てに男は包丁を握った 殺人罪で懲役10年
■「刺しました、人」
21日、愛知県内の裁判所で1つの事件に判決が下った。被告は36歳の男で、10年来の知人男性を包丁で突き刺して殺害した罪に問われ、懲役10年を言い渡された。被告の「刑の重さ」が争われたこの裁判では、被害者による被告への「長年にわたる不当な扱い」が次々と明らかにされていった。検察側は犯行動機を「被害者への復讐心」と主張したが、弁護側は「支配からの脱却だった」と訴えた。双方の主張を裁判所はどのように判断したのか。裁判を振り返っていく。 去年11月6日午後9時半ごろ、警察に1本の110番通報が入った。 「刺しました、人」 警察官が駆け付けたのは愛知県安城市にある人材派遣会社の事務所。血まみれで倒れている男性を見つけ、すぐに救急車を呼んだ。事務所には血痕の付いた包丁が見つかった。警察官は事務所のあるビルの1階にいた男を安城署に連行し、殺人容疑で逮捕した。被害者の男性はこの会社の元社長(当時41歳)で、搬送先の病院で死亡した。 その後の捜査を経て検察は殺人罪などで男を起訴、事件から1年が経った今年11月11日から名古屋地裁岡崎支部で裁判員裁判が始まった。
■「カッパ」の髪型を強要し「かっぱ巻き」を食べさせる
被告の名前は小林元被告(36)。弁護側の冒頭陳述によると、被害者の男性とは2013年ごろにキャバクラ店で知り合った。当時、仕事を探していた小林被告は被害者から仕事を紹介された後、被害者が実質的に経営権を握る人材派遣会社の代表となった。弁護側が主張する「支配」はこのころから始まった。 判決によると、従業員らへの給料を被害者が小林被告に渡さず、小林被告が被害者から金銭を借りたということにしてその返済を求めたり、実現が難しい業務上の指示を与えて、できないと罰金を科した。これらの金銭に法外に高い利息をつけて借金づけの状態に陥れ、継続的に金銭を巻き上げた。 また、関係者に指示して小林被告に殴る蹴るなどの暴行を加えた。その程度は木刀が折れるほどだった。 ほかにも小林被告の頭頂部のみの髪を剃り上げてカッパのような髪型を強制したり、丸刈りにしたりして仲間うちの笑いものにするなどの屈辱的な行いを繰り返していた。小林被告が逃げ出したときもあったが、被害者は連れ戻して集団で暴行を加えさせた。判決前の審理で弁護側はカッパのような髪型について「1年ほど強要され、すし店ではかっぱ巻きを食べさせられた」と訴えていた。 判決で裁判所は被害者による小林被告への支配関係について、ほかにも「小林被告が自宅に帰れないように事務所に住まわせて連れ回し、家族とのつながりを絶ち、意のままに小林被告を動かす状況をつくった」と認め、「人としての尊厳をないがしろにした異様なもの」と判断した。