自動車認証不正問題であぶり出された課題
「悪質性はないが、遵法性に対する考え方が甘かった」(ホンダ・三部社長)
「目的としては精緻なデータがとりたいというものだった。さらなる安全に生かしていきたいという想い」(マツダ・茂籠社長)
中でも、トヨタの豊田会長の率直な口ぶりが目立ちました。 「残念な気持ちと、“ブルータスお前もか”という感じではないか。トヨタは完ぺきな会社ではない。まだ改善の余地があるという気づきを得ることができた」 「当局と相談しながら、この仕様でこういう試験をしましょうと決めているが、やり方はあいまい、メーカー間や担当者の解釈の違い、仕向け地によってもルールは変わる」 「全体像を把握している人は自動車業界では一人もいない」 国土交通省の求めに応じ、数万件を確認したところ、問題のあるケースが6件あったと、レアケースであることを強調。そして、認証制度の課題についても言及しました。 「会見で言うべきではないと思うが、これをきっかけにすり合わせをして、何が客のため、日本の自動車業界の競争力向上に繋がるか、制度自体をどうするか、議論につながるといいなと思う」 振り返るに、今回の不正自体は決して許されるものではありません。認証制度の信頼性を大きく揺るがすだけでなく、これに伴う出荷停止により、組み立て工場だけでなく、部品を供給する企業にも影響を与えました。また、各社トップの姿勢は「厳しい条件であれば問題はない」という、ある種の傲慢さととられても仕方ありません。猛省が求められます。 一方、これを機に認証制度の現状について省みる余地はあるでしょう。 自動車のカタログをご覧になった方ならご存知かと思いますが、巻末には主要諸元表(英語では「SPEC INFORMATION」などと書かれています)があります。クルマの寸法、重量、エンジンやサスペンション、ブレーキの形式、タイヤサイズ、燃費の数値などが記されている、いわばそのクルマの「プロフィール」ともいえるものです。認証はそのプロフィールに誤りがないことを証明するもので、これらを正確に想定します。ただ、カタログに載っている事項は認証全体のごく一部で、実際にはより多岐にわたります。さらに認証項目には衝突性能、環境性能などの試験も加わってきます。 認証項目については道路運送車両法の保安基準というサイトで閲覧することができますが大変細かく、国土交通省の担当者によると、これらを紙面にまとめれば約2000ページ、「六法全書二冊分」に相当するそうです。認証作業の担当者はこの膨大な項目から必要な部分をマニュアルや手順書に落とし込み、作業をしているとみられます。その項目は1台の車に対して、100は下らないそうです。「全体像を把握している人は自動車業界では一人もいない」……豊田会長の発言に象徴されるように、極めて複雑な認証の元に1台の自動車が成り立っているわけです。 かつての自動車業界で、高性能をアピールするためにエンジン出力競争が激しかった時代がありました。競争が過熱し、「自主規制」の建前で登録車の上限を280馬力としていたこともありました。また、燃費競争の激化で、変速機のギア比を必要以上に上げたり、装備を簡略化した「燃費スペシャル」なるグレードも存在していたことを思い出します。 しかし、クルマ社会が成熟し、そうしたカタログを飾るだけの「数字のマジック」がだんだん通用しなくなってきました。エンジン出力にしても、燃費にしても走行環境によって大きく変わる……虚偽のデータは決して許されませんが、そこまで厳密な条件での再試験や解析が必要なのか……そんな分野も少なくないと思われます。 さらに、「100年に一度の大変革」、技術は日進月歩で、電動化や知能化、自動運転など……最新の技術に対応した認証項目も今後、飛躍的に増えていくでしょう。安全性能や環境性能が軽視されてはなりませんが、官民で人数が限られる中、より時代に合った効率的な認証制度の構築が必要ではないか……会見では記者からもこの種の指摘がありました。 特に示唆に富むのはトヨタが行った後面衝突試験、今後、EV=電気自動車の普及で車両重量が増えていくと予想される中、国内基準で1100kgの台車を使うことが適切かどうかは早晩議論の対象になるでしょう。