経済対策で給付金・補助金のGDP浮揚効果は0.07%、全体で1.0%程度と概算:経済対策に6つの問題点
2.経済対策の経済効果試算
■住民税非課税世帯への給付金総額は3,500億円程度と推定 昨年2023年の経済対策では、住民税非課税世帯に1世帯あたり7万円と18歳以下の児童1人あたり5万円が給付され、その総額は1兆500億円と見積もられた。 令和4年国民生活基礎調査によると、住民税非課税世帯は全体の24.2%の構成比だった。世帯総数は同年に5,431.0万であったことから、住民税非課税世帯数は1,314.3万程度と推定される。この世帯に7万円ずつ給付金を支給すると、総額は9,200億円となる計算だ。残りの1,300億円が住民税非課税世帯の子供への給付額と推定されるが、これを5万円で割ると住民税非課税世帯の子供の数は260.0万人となる。 上記の試算結果を用いると、今回の経済対策で、1,314.3万の住民税非課税世帯数に3万円の給付を行うと、その総額は3,942.9億円となる。さらに同世帯の260.0万人の子どもに2万円ずつ給付すると、その額は520.0億円となる。両者を合計すると3,462.9億円となる。 また、こうした一時的な給付が消費に回される割合は低く、過去の定額給付金と同様に25%程度が消費に回るとの前提で計算すると、給付がGDPを押し上げる効果は1年間で0.015%と推定される (図表)。
■エネルギー補助金の増額は1兆2,000億円程度と推定 ガソリン価格抑制の補助金制度は2022年1月に始まり、現在も続けられている。電気・ガス料金の支援は2023年1月に始められ、2024年5月末に一度打ち切られたが、8月から10月の3か月間復活した。政府は年内を期限としていたガソリン補助金を2025年3月まで延長する一方、電気・ガス料金の支援を来年1月から3月の3か月間再開する。 予備費からの支出も含め、ガソリン補助金の予算累計は7兆1,395億円、電気・ガス料金支援の予算累計は3兆9614億円、合計で11兆1,009億円に達した計算だ。それぞれ1カ月当たりの平均支出額を計算すると、ガソリン補助金は1,983億円、電気・ガス料金支援は1,981億円となる。 それぞれ3か月分の支出が今回の経済対策に織り込まれるとすると、それぞれ予算規模は5, 949億円、5,943億円となる。合計は1兆1,892億円だ。 一時的な給付金と同様に、一時的な補助金による価格低下分は25%程度が個人消費に回るとの前提で計算すると、エネルギー補助金がGDPを押し上げる効果は1年間で0.05%と推定される。 ■半導体・AIの公的支援策は9000億円程度と想定 政府は2030年度までに半導体・AI分野へ10兆円以上の公的支援策を実施するとしている。2024年度から2030年度までの7年間で10兆円の支出を行うとすると、1年あたりで1.4兆円となる。それは、2025年度予算から毎年計上されると考えられるが、2024年度補正予算、つまり今回の経済対策にも1年分計上されると仮定しよう。 その内訳について、次世代半導体の研究開発補助金などに6兆円程度、政府による出資や債務保証などの金融支援に4兆円以上が充てられる、とされる。後者は主にラピダスの支援と考えられるが、ラピダスの先端半導体の量産化に5兆円の銀行融資が必要であり、その多くの部分に政府が融資保証を付けることが予想される。それは、一般会計には入ってこない。また、直接景気浮揚効果を生むものではない。 経済対策を賄う今回の補正予算に計上される半導体・AI分野への公的支援策は、年平均の1,4兆程度のうち半分の7,000億円と想定しよう。そのうち、投資的な支出が3,000億円程度、4,000億円程度が補助金などと考える。投資的な支出の場合、8割程度はGDPの押し上げに直接貢献し、さらにその乗数効果も生じると考える。他方、補助金の場合には、企業の設備投資押し上げ効果は4分の1程度にとどまると考える。 ■経済対策の経済効果の現時点での概算 以上3つの項目の合計は、2兆2,400億円程度となる。また、その経済効果はGDPを1年間で0.13%程度押し上げられると概算される(図表)。 それ以外に、〈3〉国民の安心・安全の確保に盛り込まれるのが、例年通りの国土強靭化計画と能登半島の震災、豪雨の復興支援だ。それらは投資的な支出の割合が大きいため、景気浮揚効果も大きめとなる。 国土強靭化計画と災害関連の支出は、昨年の経済対策の補正予算には3.4兆円盛り込まれと推定されるが、今回はそれを上回る4.0兆円と想定した。その半分の2兆円が投資的支出であり、またそのうち8割程度がGDPを直接押し上げると仮定した。それ以外の支出のGDP押し上げ効果は、支出額の4分の1とした。 以上をすべて足し合わせると、GDPの押し上げ効果は現時点での概算で1.0%程度となる。昨年の経済対策の効果は、GDPを1年間で1.19%程度押し上げる程度と筆者は推定した。今回の経済対策の効果の推定値は、それを幾分下回る。 それでも1年間で1.0%程度のGDP押し上げ効果は小さくないように見える。しかし、昨年の経済対策と同程度の経済効果であれば、前年比でみた成長率の押し上げ効果はほぼないということになるだろう。