「となりのトトロ」で牛乳研究者がどうしても気になる「たった1つの名場面」
毎日の食卓に欠かせない牛乳ですが、近年の研究により今まで知られてこなかった驚きの新事実が数多く明らかになってきました。 【画像】こちらが、数百年の伝統を誇るフランス産「チーズの貴公子」です そこで今回は、長らく牛乳の研究をされている三谷朋弘氏(北海道大学大学院准教授)による、最新の研究成果をお届けします。全3回にわたる興味深い研究成果を読めば、いつも飲む牛乳が一層味わい深くなること間違いなし! 最終回の第3回目のテーマは「牛乳はどこからくるのか」。その謎を紐解くにあたって、実はどうしても先生が見逃せないポイントが某有名アニメ映画にあるようで…? 早速見ていきましょう。
牛乳は何からできている?
「牛乳は草からできている」、なかなか良い標語だと思いませんか。筆者が子供向けに講義するときには、いつも「牛乳は何からできているかな?」とはじめます。「水!!」とか、ちょっと学年が上の子だと「タンパク質!!」とか「脂肪!!」と元気に答えてくれます。そうなるとこっちのものですね。そこで「いやいや違うんだよ、草からできているんだよ」、とはじめると「エ~!!」、つかみはOKです。 「牛乳は草からできている」、これは冗談ではなくて、筆者は真面目にそう思っています。なぜ「牛乳は草からできている」のか、今回は約1万年前、牛と人類の出会いからはじめていきたいと思います。 諸説ありますが、人が牛を家畜として飼いはじめたのは約1万年前といわれています。筆者が学生だった頃は、羊や山羊の家畜化が約1万年前で、牛はやや遅れて6,500年前くらいといわれていました。そりゃ牛よりも羊や山羊の方が小さくて扱いやすいもんな、と納得していましたが、実はそうではなく、ほぼ同時期に家畜化されたようです。人類が農耕をはじめたほぼ同時期、そんな大昔から牛は私たちの仲間だったのです。 犬(15,000~36,000年前)を除くと、牛をはじめとする反芻動物から家畜化がはじまったと考えて良さそうです。これはなぜでしょうか。狩りをして肉を得るよりも楽ちん、確率が高かった、それはもちろんその通りだと思います。しかし、牛たちは人間が利用することができない草だけを食べても大きくなってくれる、食べ物が人間と被らない、このことが一番の理由だったと思います。しかも、草は大抵どんな場所でも生えますから。 牛から乳を搾り、飲用に供するようになったのは4,000~5,000年前のメソポタミア(現在のイラクあたり)やエジプトあたりだといわれています。古代のレリーフでは、子牛を母牛の近くにつないで搾乳されている様子が描かれています。これは、子牛が近くにいることにより母牛がお乳を出さなければ、と身体が反応することを利用しています。あらためて牛乳は母牛が子牛のために生産するもの、我々はその一部(現在はほとんど)を頂いていることを思い出させてくれます。 「蛙の子は蛙」ではないですが、子供の性質や才能が親に似ることはみなさん周知の事実です。乳牛ももちろん同じで優秀なお母さんに優秀なお父さんを掛け合わせると、さらに優秀な子供が生まれます。産業革命(18世紀)のころにイギリスのベイクウェルという人がこのことに気付いて乳牛をはじめとする家畜の品種改良を組織的にはじめ、数々の新しい品種を作出しました。 その後、世界各地で乳牛の改良が進められ、皆さんがご存知のホルスタイン種などのすぐれた品種が生まれました。その後更に改良のスピードは加速し、日本のホルスタイン種の平均年間乳量は、40年前(1980年)には5,000kg程度であったものが現在では9,000kg以上、10,000kgに迫る勢いで上昇しています。なかには30,000kg以上の乳量をだす牛もいるそうです。これは品種改良というよりも進化に近いですね。