イグ・ノーベル 18年連続で日本人受賞
独創的でユーモアあふれる研究や開発に贈られる「イグ・ノーベル賞」。日本人は18年連続で受賞している。
2024年の「イグ・ノーベル賞」授賞式が9月12日、米ボストン近郊にあるマサチューセッツ工科大学(MIT)で行われた。人々を笑わせつつ深く考えさせる研究を顕彰する同賞で、今年も日本人が栄誉に輝いた。日本人の受賞は2007年から18年連続。 今年は、「哺乳類が肛門を通じて腸内で呼吸できること」を発見したとして、東京医科歯科大学の武部貴則教授らのグループが生理学賞を受賞した。 イグ・ノーベル(Ig Nobel)賞は、ノーベル賞のパロディーの意味合いを込め、米国の科学ユーモア雑誌が1991年に創設した。「イグ(Ig)」は否定を示す英語の接頭辞で、「卑劣な」「不名誉な」などの意味を持つ単語「ignoble」とも掛け合わせている。
日本人の初受賞は92年で、「足の臭いの原因となる化学物質を特定した」として、神田不二宏氏ら資生堂の研究チームが受賞した。2度受賞したのは、粘菌と呼ばれる単細胞生物を研究する中垣俊之氏。2008年に認知科学賞、10年に交通計画賞を受けた。 受賞は科学系が多いが、電子ゲーム「たまごっち」の開発で経済学賞(1997年)、犬語翻訳機「バウリンガル」の開発で平和賞(2002年)、カラオケの発明で同賞(2004年)が贈られている。 日本人受賞者が最も多い部門は、化学賞(6回)。続いて生物学賞(4回)、医学賞(3回)などとなっている。
イグ・ノーベル賞 日本人受賞者
1992年 医学賞 ・神田不二宏(資生堂研究員)ら ・足の臭いの原因となる化学物質を特定 1995年 心理学賞 ・渡辺茂(慶応大学教授)ら ・ハトを訓練してピカソとモネの絵を区別させることに成功 1996年 生物多様性賞 ・岡村長之助(岡村化石研究所) ・1000以上の「ミニ種」の化石を発見 1997年 生物学賞 ・柳生隆視(関西医科大学講師)ら ・ガムをかんでいる時、ガムの味で脳波がどう変わるか研究 1997年 経済学賞 ・真坂亜紀(バンダイ)、横井昭裕(ウィズ) ・「たまごっち」を開発 1999年 化学賞 ・牧野武(セーフティ探偵社社長) ・夫のパンツに吹きかけると浮気を発見できるスプレーを開発 2002年 平和賞 ・佐藤慶太(タカラ社長)、鈴木松美(日本音響研究所所長)、小暮規夫(獣医師) ・犬語翻訳機「バウリンガル」を開発 2003年 化学賞 ・広瀬幸雄(金沢大学教授) ・ハトに嫌われた銅像の化学的考察 2004年 平和賞 ・井上大佑(会社経営) ・カラオケを発明 2005年 生物学賞 ・早坂洋司(オーストラリアワイン研究所) ・カエルがストレスを感じる時に出す特有の臭いをカタログ化 2005年 栄養学賞 ・ドクター・中松(中松義郎、発明家) ・34年間自分の食事を写真に撮り、脳の働きや体調への影響を分析 2007年 化学賞 ・山本麻由(国立国際医療センターの元研究員) ・牛ふんからバニラの香り成分「バニリン」を抽出 2008年 認知科学賞 ・中垣俊之(北海道大学准教授)ら ・単細胞生物の真正粘菌が迷路の最短経路を見つけることを発見 2009年 生物学賞 ・田口文章(北里大学名誉教授) ・パンダのふんに含まれる細菌で台所の生ごみを90%削減 2010年 交通計画賞 ・中垣俊之(公立はこだて未来大学教授)ら ・鉄道などのインフラ整備に真正粘菌の「知恵」が役立つことを研究 2011年 化学賞 ・今井真(滋賀医科大学講師)ら・ ワサビの匂いの気体で聴覚障害者に知らせる火災警報装置を開発 2012年 音響賞 ・栗原一貴(産業技術総合研究所研究員)、塚田浩二(科学技術振興機構研究員) ・おしゃべりを続ける人を邪魔する装置「スピーチ・ジャマー」開発 2013年 医学賞 ・新見正則(帝京大学准教授)ら ・心臓移植したマウスにオペラ『椿姫』を聴かせると、生存期間が延びたとの研究 2013年 化学賞 ・今井真介(ハウス食品研究主幹)ら ・タマネギの催涙成分をつくる酵素を発見 2014年 物理学賞 ・馬渕清資(北里大学教授)ら ・バナナの皮の滑りやすさを証明 2015年 医学賞 ・木俣肇(クリニック院長) ・キスで皮膚のアレルギー反応が低減することを実証 2016年 知覚賞 ・東山篤規(立命館大学教授)ら ・「股のぞき」をすると、距離を正確につかみにくいことを証明 2017年 生物学賞 ・吉沢和徳(北海道大学准教授)、上村佳孝(慶応大学准教授) ・ブラジルに生息する昆虫の雌に、雄のような形状の性器があることを発見 2018年 医学教育賞 ・堀内朗(昭和伊南総合病院消化器病センター長) ・座位で自身の大腸内視鏡検査を行い、苦痛が少ないことを実証 2019年 化学賞 ・渡部茂(明海大学教授)ら ・5歳児の唾液のサンプルを集め、分泌量を調査 2020年 音響賞 ・西村剛(京都大学霊長類研究所准教授) ・ヘリウムガスでワニのうなり声も高くなることを発見 2021年 動力学賞 ・村上久(京都工芸繊維大学助教)、西成活裕(東京大学教授)、西山雄大(長岡技術科学大学講師) ・「歩きスマホ」の危険性を実証 2022年 工学賞 ・松崎元(千葉工業大学教授)ら ・円柱形の取っ手を何本の指を使って回すかについて研究 2023年 栄養学賞 ・宮下芳明(明治大学教授)、中村裕美(東京大学特任准教授) ・電気を通した箸やストローで飲食物の味を変えることを提案 2024年 生理学賞 ・武部貴則(東京医科歯科大学教授)ら ・哺乳類が肛門から呼吸できることを発見 *肩書・所属は当時、敬称略 出所:improbable.comなど