<甲子園交流試合・2020センバツ32校>帯広農4-1健大高崎 帯広農、収穫スクイズ 聖地初星「攻撃の幅」結実
◇第5日(16日・阪神甲子園球場) 帯広農が積極的な打撃と好守で健大高崎を振り切った。帯広農は二回に菅、村中の連打などで2死満塁とし、谷口の2点適時打で先行。三回に4番・前田の意表を突くスクイズで加点した。ともに緩急を生かした投球が持ち味の井村、水上の継投も決まった。健大高崎は再三好機を作りながら3併殺と、打線がつながりを欠いた。 【真夏の熱闘】交流試合の写真特集はこちら <帯広農4―1健大高崎> 21世紀枠で選出されたチームに交流試合初勝利をもたらした要因は「攻撃の幅」だった。帯広農の相手は、明治神宮大会準優勝で昨秋の関東大会覇者・健大高崎。北の大地でのびのびと鍛錬を続けた日々は、強豪相手の大舞台でも気負わず、冷静なプレーに結実した。 象徴的だったのは1点リードの三回1死三塁の場面だ。カウント1―1となった4番・前田に出されたサインはスクイズだった。外角低めの直球を捕前へ丁寧に転がして成功。「バッテリーや内野手が浮足立っているように見え、当てればいいだけだと思えた」と冷静に振り返る。 センバツが中止になった後、チームは「夏も甲子園出場を」と、攻撃の幅を広げるための努力を続けた。エンドランや盗塁など足を使った攻撃や、バントを絡めた揺さぶり方を身に付けた。前田自身も、昨秋の公式戦で記録した犠打はわずか1本。バントは苦手だったが、自然と体が動くようになっていた。 試合後、前田康晴監督が「収穫の時期をイメージしたのかな」と説明したのは、センバツのために新調し、この日も着用したユニホーム。これまでより濃い小麦色だ。北海道は間もなく秋を迎える。チームにとって一足早い「収穫の秋」となった。【森野俊】 ◇スローカーブで手玉 井村塁投手 帯広農・3年 スローカーブを、もう一球。マウンドの右腕は、捕手のサインに応え続けた。 二回、1点を奪われ、なお2死二塁のピンチ。帯広農・井村は健大高崎・下に対し、外角低めのスローカーブで打ち気をそらした後、同じコースのスライダーで泳がせて二ゴロに仕留め、流れを渡さなかった。その後も100キロ台のスローカーブを効果的に使い、3併殺のバックにも助けられて、6回1失点の好投。昨秋の明治神宮大会準優勝の強豪相手に先発の役割をまっとうした。 井村は「速い球は投げたいけど」と正直に打ち明ける。だが、直球は速くて130キロ前後。「遅い球の方がボールが飛ばない」と開き直り、いつもより遅い球の割合を増やしたことで「甲子園初勝利」への道が開けた。 卒業後は公務員になるのが夢だ。野球の真剣勝負はこれが人生最後かもしれない。「最後に笑顔で終われてよかった」。夏の思い出を胸に、北の大地に帰る。【新井隆一】 ◇健大高崎、本領遠く 修正できず3失点 下慎之介投手 健大高崎・3年 「力の半分も出せなかった」。試合後、絞り出した言葉が全てを語っていた。 プロ注目左腕でもある健大高崎の先発・下。4回3失点でマウンドを降り、高校最後の登板は57球。実力を披露するには短すぎた。 先制を許した二回、「頭が真っ白になった」。2死満塁のピンチで帯広農の9番・谷口を迎えた。3球で追い込んだが、4球目の決め球が内角に構える捕手のミットとは逆へ。下半身の力がうまく伝わらない逆球をたたかれ、一、二塁間を破られた。「直球も変化球も高めに浮き、どうしようかと思った」。140キロ超の速球を誇る184センチの長身左腕は、最後まで修正する策を見いだせなかった。 昨秋は関東大会を制し、準優勝した明治神宮大会もエースとしてチームを引っ張り、全国区で注目を浴びた。すでにプロ志望届を提出し、甲子園は絶好のアピールの場でもあったが、本領発揮とはいかなかった。中学時代からバッテリーを組む捕手の戸丸は「きょうの投球は15点。力が足りないことを自覚してほしい」。互いを知り尽くすからこそ、あえて厳しい言葉をかけた。 「こんな形で終わって、悔いが残る。精神的に強くなって、上(プロ)の世界で上り詰めたい」と下。前を向き、飛躍の糧にする覚悟を示した。【長宗拓弥】 ……………………………………………………………………………………………………… △午後0時52分 帯広農(北海道) 021010000=4 010000000=1 健大高崎(群馬)