BYD「EV世界一」を達成、大成長を遂げた根本理由とは? そのカギは前進的“模倣”だった
政府支援という後ろ盾
この急速な成長の背景には、中国政府によるEV産業振興政策と手厚い支援があったことも忘れてはならない。 2009年、政府は「汽車産業振興規画(自動車産業振興計画)」を発表した。この計画は主要九大産業の振興策の一環として発表されたもので、 ・乗用車の購入税減税 ・乗貨両用車の買い替え補助金 ・自動車および自動車部品メーカーの再編 などの支援策を規定している。 また、2010年代を通じて、EVに対して1万ドルから2万ドルの補助金が支給される手厚い補助金制度があったが、これは中国で車両を組み立てる企業で、認定された中国のサプライヤーからリチウムイオン電池を調達する企業のみが対象であった。つまり、補助金制度によって中国のEVメーカーは競争上の 「優位性」 を獲得することができたのだ。この制度により、BYDなどの中国EVメーカーは急速に成長した。政府の支援により、電池技術や車両設計の開発を加速し、コスト削減を実現することができたのだ。この補助金制度は、中国EVメーカーが世界市場で競争力を得るための重要な基盤となった。 こうした状況のなか、BYDはEVだけでなく、電気バスなどの公共交通分野でも大きな成功を収めている。
模倣からの進化
BYDは、早い段階から公共交通へのEV導入を推進しており、2004年には深センでタクシーとして使用する50台を出荷した。この分野は着実に成長を続け、2011年には深センで初の電気バスが運行を開始した。 それ以来、世界各国の都市に3万5000台以上の電気バスを納入し、2014年から2017年にかけて4年連続で世界一の電気バス販売台数を記録した。世界の都市で電気バスの導入が進むことで、持続可能な公共交通システムの構築が加速している。BYDの取り組みは、環境問題の解決に向けた具体的な行動として高く評価されている。 各分野への着実な進出の結果、2022年にはBYDのEV販売台数は193万台に達し、テスラを抜いて世界一となった。中国市場では圧倒的なシェアを誇り、自動車メーカーとしての地位は揺るぎない。10年余りで、無名の民族系メーカーが世界一のEVメーカーへと躍進したのだ。 前述のとおり、当初BYDは中国に有象無象存在したメーカーのひとつにすぎなかった。しかし、BYDは模倣から学び、新しい技術を組み込むことで、着実に成長していった。事実、急成長の背景には、地道な模倣と研究を繰り返すという姿勢があった。 日本語でも「学ぶ」は「まねぶ」と同語源であり、「まねをする」という意味もある(小学館「デジタル大辞泉」)。学ぶことは。まずはまねをすることなのだ。 「日本車メーカーなどの優れた点」 を真剣にまねしたBYDには、そんなハングリー精神があったといえよう。
川名美知太郎(EVライター)