「私たちが問われている」「被爆体験、世界の記憶に」「全ての人に、平和な日常を」 後を継ぐ世代やウクライナ避難者が語る、自分たちがやるべきこと【私の視点 ノーベル平和賞】
中学の時、被団協の代表委員だった坪井直(つぼい・すなお)さん(2021年に96歳で死去)と出会い、証言の聞き取りをしたことが私の原点だ。結婚差別を受けて自殺を図ったことをぽろぽろと涙を流しながら話す姿に心を打たれた。被爆から長い時間がたっても癒えない傷を負っていることを知った。 受賞決定を知り、坪井さんら被爆者の皆さんの顔が浮かび、胸がいっぱいになった。一方でこの授賞は国際社会への警鐘だ。世界は核戦争の一歩手前にある。私たち新しい世代は、被爆者の体験を世界の記憶にしていくためにできることは何でもやっていかないといけない。 先日、ショックなことがあった。地下鉄車内で、修学旅行で広島に行くという女子高生が「資料館グロいの嫌なんだよね」と話していた。原爆資料館の展示をグロテスクだと言ってしまうのは、被爆が同じ人間に起きたことだと捉えられないほど、時間の経過とともに意識の変化が生じているということだ。
▽被爆者の人生を語り継ぐ重要性 被爆者とはひ孫ぐらい年齢の離れた私たちの世代にとって、核問題を自分ごとと考えるのはハードルが高い。それを越えるには、被爆者の顔を想像できるようにすることが必要だと思う。そのために、私たちがいかに被爆者の人生を語り継いでいけるかが重要だ。 核廃絶に向けた市民運動に若い世代が参加することも大切。80年先を見据える立場からすれば、核抑止による短期的な対応で世界を核使用の脅威にさらし、「平和」だというのは理解できない。若い世代の関心を広げるには、核を広島と長崎だけの問題に矮小(わいしょう)化させてはいけない。 受賞はゴールではない。坪井さんはかつて「ノーベル賞より核廃絶だ」と語っていた。受賞はもちろん喜ぶと思うが、核戦争が迫る現状を憂うはず。「被爆者の皆さんが頑張ってこられた分、これからは私たちが頑張ります」と伝えたい。 × × たかはし・ゆうた 2000年、広島県生まれ。「核政策を知りたい広島若者有権者の会」共同代表も務める。 ▽「核の脅威、故郷の日常に」ウクライナから避難するイリーナ・デルガチョワさん(31)