「認知戦不発」の台湾総統選挙から汲むべき逆説的教訓
投票前夜の民進党集会で頼清徳候補の演説に歓呼する支持者 写真:筆者提供
台湾社会の分断を深くするための楔(くさび)を打ち込めなかった、これが2024年の台湾総統選挙における認知戦のひとまずの結論ではないだろうか。 総統選挙を翌日に控えた台北の街を歩いていた時、調査チームのひとりが、道路に面したマンションの高層階を指差した。そこには「票投國衆黨引進習近平」と書かれた横断幕が掲げられていた。それを写真に撮り、地元の人たちに見せても、首を傾げる人が多かった。まず、「國衆黨(国衆党)」という政党は台湾に存在しない。おそらくこれは、選挙が行われる前まで野党第一党だった「国民党」と野党第二党の「民衆党」を合わせた造語なのだろう。そうすると、この横断幕が意味するのは、「国民党と民衆党に票を投じれば、習近平を引き寄せることになる」という意味なのかもしれない。複数の台湾の人に聞くと、「まあ、そう読むことはできなくはない」という反応だった。 しかし、反中姿勢を鮮明にする与党の民進党が敗北し、親中と言われることの多い国民党が勝利したとして、果たして習近平国家主席が率いる中国共産党が台湾に無血侵攻することはできるだろうか。第二次世界大戦後の日本国民が、連合国総司令部(GHQ)のダグラス・マッカーサー司令官を迎えたように、台湾の人々が中国人民解放軍を迎え入れるとは考えにくい。
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土屋大洋