小学生限定の不良LINEグループから犯罪行為を覚え…窃盗、暴行、恐喝で多摩少年院に収容されたワタル(18)が社会に抱いていた“意外な不安”
社会でのワタルとの再会
自分を認めてくれる居場所が欲しかったのは私と同じ。あのときは自分の寂しい気持ちに気づかなかった。ワタルも私と同じように、自分を認めてくれる存在しか信じられなかったのかもしれない。 ワタルが仮退院してから1週間が過ぎていた。彼から連絡はくるだろうか。 信じて待つしかない。 そして、3週間を過ぎた頃だろうか、高坂くんから「ワタルとつながりました」と連絡が入った。 11月、ワタルが仮退院してから4ヵ月後、渋谷で会う約束をすることができた。 コロナ禍かも収束に向かいつつあり、渋谷は人であふれ返っていた。 待ち合わせはハチ公前。高坂くんと2人でワタルを待った。 「あれ、あの子じゃない?」 「いや、もっと身長高いですよ」 私の問いかけに高坂くんが答えた。 「あっ!」 高坂くんが右手を上げて歩き出した先に、ワタルの姿が見えた。 ワタルはスリムジーンズにTシャツ、髪の毛もセットされていた。少し痩せたように見える。メガネはなく、コンタクトになっていた。 改札口を間違えて出てしまったそうだ。きっと走ってきたのだろう、額には汗が滲んでいた。 高坂くんとワタルはハチ公を背に、横断歩道に向かって歩きはじめた。会話は聞こえないが、2人が笑顔で話しているのがわかる。 2人を追い越して、後ろ向きで歩きながらカメラを回し、その様子を撮影した。フレーム越しに見る2人は、久しぶりに会った友人同士に見える。 こうして少年院の中からつながり、社会で再会できるのはとても嬉うれしいことだ。再会し、無事、映画の撮影を継続できたことに安心した。 渋谷駅を出てミヤシタパークの屋上(宮下公園)まで上がり、ベンチを見つけて腰をおろした。 「よく来てくれたね。遠かった?」 高坂くんがワタルに話しかけた。 「はい。あ、いえ、はい」
「出てきて、悪いことをしちゃってました」
ワタルは正直に答えてしまった後に、気を使うところだったと思ったのか、曖昧に返答した。ワタルの人のよさと子どものような一面だ。 「気を使わずにしゃべっていいんだよ。その方が嬉しいよ」 私がそう声をかけると、ワタルはうなずきながら笑顔になった。 「家から駅までの足がなくて、後輩に送ってもらいました」 「免許のある後輩か?」 と私が笑いながら突っ込むと、みんなも笑い、撮影のときのなごやかな雰囲気を思い出した。 「いまのバイクのケツに乗る話もそうだけどさ、出てから犯罪をしてしまうことあったん?」 高坂くんの言葉に、ワタルは高坂くんをチラリと見た後に、「はい」と答えた。 一歩離れて見ていた私の場所からは、暗くてワタルの表情は見えないが、うなずいて答えているのがわかる。 「出てきて2週間は、悪いことをしちゃってました」 「わ、わ、悪いことしよったん?」 ワタルの言葉に驚き、高坂くんはあわてた様子で聞き返した。 出てから2週間後に悪いことをしてしまったのではなく、出てからすぐ犯罪をしてしまったということだ。少年院での誓いは一瞬で消えたということか。 「いまは頑張れてます!」 ワタルもあわててそうつけ足した。 「どんなことしちゃったん?」 「大麻とか、暴走行為とか、無免とかです」 ワタルは出てからすぐに犯罪をしていた。少年院では社会が不安といい、地元の友達との関係性を心配していたが、その不安や心配とは社会に受け入れてもらえるかどうかだったのか。それとも悪い友達に受け入れてもらえるかどうか、ということだったのか。 環境と意思だったら、環境の方が強い――。 少年院の先生が言っていたことを思い出す。先生の言うように、環境に流されてしまったのか。 「脅されて、彼女の家とか調べられていて」少年院仮退院→強盗殺人未遂で逮捕…ワタル(18)が再び犯罪に手を染めてしまうことになった“恐ろしい経緯” へ続く
中村 すえこ/Webオリジナル(外部転載)
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