小学生限定の不良LINEグループから犯罪行為を覚え…窃盗、暴行、恐喝で多摩少年院に収容されたワタル(18)が社会に抱いていた“意外な不安”
出院後、誰と出会うか、誰と過ごすか
先生はこれまで、指導としてワタルにこう伝えていたという。 ――環境と意思だったら、環境の方が強い、どんなに自分がよくなりたいとか、こんな人間になっていきたいとか、夢とか将来の希望があったとしても、それを叶えられるような環境に自分自身がいないと、なかなか自己実現というものには結びつかない。 その通りだと思う反面、環境がよければうまくいくわけではないことを、私はよく知っている。 与えている側が満足だろうと思う環境は、少年たちにとって十分じゃないこともある。これは指導者、支援者の課題だ。 そもそも「何があればよかったのか」という問いの答えが見つからない少年の方が多いのではないか。「いい環境とはどんな環境?」ってことだ。 まわりの人は「少年院で更生してる」と思うだろうが、実際に考えてみてほしい。少年院の生活期間は1年だ。その期間を「1年も」と思う人もいるだろうが、私にしてみたら「たった1年」だ。これまで生きてきた価値観を、たった1年で変えることはかなり難しい。 少年たちの価値観を常識で考えたらダメだ。親に虐待されていた少年は「暴力」という方法しか解決策を知らなかった。幼少期から親の薬物使用を見ていた少年は薬物への抵抗がまったくなかった。自分が望んでその価値観を持つようになったわけではないことも知ってほしい。 1年という期間で自分と向き合いながら、「変わりたいと思えるようになる」こと、また「変わりたいというきっかけと出会う」ことだけで精一杯じゃないかと私は思う。 だから、出院はゴールじゃなくて社会生活本番のスタートなんだ。 出院後、誰と出会うか、誰と過ごすかで、その後の生活が決まってくる。 これからなんだ。 正直、私はワタルが失敗したのが社会に出てからでなく、少年院の中でよかったと思った。少年院の中でなら、失敗を次につなげることができるが、社会に出たらやり直しができない状況になる場合もある。 この坂を“地獄坂”として上ることのないように、社会でワタルに関わっていきたいと思った。 「先生、お話を聞かせていただき、ありがとうございました」 ワタルに届いているかどうかはわからない。それでも寄り添い、何度も何度も伝えていくことに意味がある。
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