なぜドイツの環境活動家は、テスラの工場拡張に反対するのか
工場で相次ぐ環境事故
住民による「グリューンハイデ市民イニシアティブ」によると、同地域にあるテスラ工場の3分の2は、飲料水保護地域に位置している。水を採水している場所は工場から1.5キロメートルのところにある。一方、テスラは、すでに多数の環境事故を起こしており、同地域の飲料水となる地下水の汚染が懸念されている。 ブランデンブルク州環境局によると、2021年末から2023年9月までにテスラ工場での26件の環境事故が報告された。1万5000リットルの塗料、合計200リットルの軽油などが流出した事故もあった。これらの液体の土壌への浸出を防ぐための措置は取られていなかった。同地域には物質を濾過・浄化できるような土壌もない。ベルリンのライプニッツ淡水生態学・内水面漁業研究所のマーティン・プッシュは、テスラにおける環境事故が近隣の水源を今後何年にもわたって汚染する可能性を、「シュテルン」に指摘している。 「シュテルン」の調査報道によると、テスラ工場の敷地内には、地下水測定ポイントが約20カ所あるが、実施するのはテスラが委託した会社だ。地域の水供給会社も行政もその状態を把握できていないという。通常、水保護地域では地中深くに杭を打つことが禁止されている。しかし、テスラが鉄筋コンクリートの工場建設のために同地域の地中に杭を打つことは、当局によって許可された。
テスラ車は「一握りの金持ちのためのもの」?
また、カムは「テスラの作る電気のスポーツ多目的車(SUV)は、気候変動の解決策にならない」と訴える。 「第一にSUVというのは速く走れる高価な自動車で、誰もが乗れるわけではない。すでに起こっている気候危機の影響を抑制するために、限られた資源をどう消費するか、社会で決断する必要がある。一握りの富裕層が元のライフスタイルを継続するための非効率な乗り物ではなく、より多くの人が利用できる公共交通にたくさん投資すべきだ」 また、EV自体が環境に与える影響も大きいことを環境団体は指摘する。 「EVに投入されるすべての資源を考慮すると、環境面でどれだけ優れているかは未知数だと言う人もいる」 EVバッテリーの生産に必要なニッケルやコバルトなどの資源の採掘には多くの問題が伴う。世界の約半分のニッケルを産出するインドネシアでは、採掘にあたって大気や水、土壌の汚染などの問題が指摘されている。同国ではニッケル加工のために石炭発電所が新たに建設され、二酸化炭素を排出している。また、世界のコバルトの約70%を産出するコンゴ民主共和国では採掘現場での児童労働と危険な労働環境が報告されている。 これらの問題に対しては、EU(欧州連合)もドイツ政府もサプライチェーン法を制定し、環境・人権面でのサプライチェーンのデューデリジェンス実施を義務付けた。ドイツではすでに施行されており、大企業には一次サプライヤーにおけるリスク特定とその軽減が求められている。しかし、それで十分なのかは未知数だ。