なぜドイツの環境活動家は、テスラの工場拡張に反対するのか
テスラを歓迎する連邦政府と緑の党
テスラ工場建設のために伐採された森林は、工場が位置するブランデンブルク州から売却されたものだ。1990年に旧西独に統合された旧東独地域は今も西側より経済発展が遅れ、失業率が高く、一人当たりのGDPが低い。そのために政府は補助金などを出して、旧東独地域に積極的に企業を誘致してきた。東側の土地は西側よりも比較的安価で、訓練された人材もおり、政府の支援も得られることから、近年、再生エネルギーやバッテリー、EVなどの新たな分野で投資が増えている。 テスラもそのうちの1社で、政府はその投資を歓迎した。2020年、ブランデンブルク州環境局が森林の伐採を許可したのは、工場の建設許可が下りる前だった。政府は周辺の道路や公共交通などのインフラを整え、工場建設を積極的に支援した。 抗議活動が激化しても、連邦政府による工場拡張支持の姿勢は崩れていない。2022年の工場開所式にスピーチをした連邦経済大臣ロバート・ハベック(緑の党)も、テスラ工場の重要性を訴えつづけている。「自動車生産なくしてドイツへの関心を保つことはできない。未来の自動車をここで生産し、雇用と付加価値がドイツに維持されるように働きかけている」と、「フンケ・メディアグループ」のインタビューに答えている。
深刻化する水問題
一方、なぜテスラはそれほど環境活動家に嫌われているのだろうか。走行時に二酸化炭素をほとんど排出しないEVは、ガソリン車に代わる環境にやさしいソリューションだと考えられてきた。 理由はいくつもあるが、一番の問題は、同地域にすでに存在する水問題が深刻化するという懸念だ。ブランデンブルグは、ドイツでももっとも水の少ない地域の一つで、気候変動によって飲料水となる地下水の水位が低下している。グリューンハイデの中でも地域によっては住民に1日105リットルという水道水の使用上限が課されるほどだ。これはドイツ人の1日の平均水消費量128リットルに比べ、大幅に少ない。 反テスラ環境団体ネットワーク「テスラの蛇口を閉めろ」のエスター・カム広報官によると、「水不足のために一般住民の宅地建設には許可が簡単に下りなくなっている」という。 そんななかでテスラの工場にはすぐに建設許可が下り、テスラはすでに年間約50万立方メートルもの水を使用している。今後生産台数が増えれば、テスラによる水消費量はさらに増えるだろう。市民よりも大企業が優先されているかのようだ。 テスラは使用した水を100%リサイクルし、使用する水道水の量を抑えていると主張している。しかし、衛生設備などからは外部に廃水を出しており、地域の水道協会(WSE)によれば「テスラは工場開設以来、規制値を大幅に超過する廃水を垂れ流している」と、独誌「シュテルン」が報じている。WSEはテスラと各汚染物質の制限値について合意し、契約を交わしていた。しかし、調査の結果、最大許容量の6倍のリンが廃水から検出されたという。廃水は処理場で浄化され、川に流されるが、あまりの汚染のために処理場で適切に処理できない可能性が指摘されている。