「自分が何を考えているのか、実は自分でもよく分かっていない」…実は優秀な人ほど犯しやすい「思考の落とし穴」
「再現VTRにまとめる」ことの重要さ
こうした状況は、思考する人自体が、言葉の抽象性に搦めとられてしまうことによって生じます。言葉は本来抽象的なものです。もちろん、言葉が抽象化の機能を持っているからこそ、人間は自分たちが観察できる範囲を超えて情報を伝達することができます。 例えば、私たちが実際にその完成の場面を見たわけではないのに「2012年に東京スカイツリーが建てられた」という事実を知ることができるのは、まさに言葉がその出来事を抽象化してくれたことに起因します。しかし、だからこそ私たちは、ときに抽象化という言葉の便利な機能に足をすくわれて、「実質的には何も考えることができていなかった」ということがしばしばあるのです。 実質的に物事を考えるためには、私たちは必ず具体的な事例を複数念頭に置きながら思考しなければなりません。 例えば「これからの時代に対話が大事だ」と言うのであれば、「対話」という言葉によって示されている事例やその特徴を具体的に想定できていなければなりません。 そして、長い文章をちゃんと理解したり、相手に伝達したりするときには、私たちはその長さに応じた「具体的な思考の流れ」を獲得しなければなりません。 これこそが、本書において私が「再現VTRにまとめる」という言い方で取り組みたい内容です。 そこで本章においては、高度に抽象的なアーギュメントを「再現VTR」にまとめるための技法を説明していきます。 さらに連載記事<アタマの良い人が実践している、意外と知られてない「思考力を高める方法」>では、地頭を鍛える方法について解説しています。ぜひご覧ください。
山野 弘樹(哲学研究者)