〝闇バイト〟〝トクリュウ〟を予見?「東京難民」から10年 進む貧困・格差
それを「トクリュウ」と呼ぶのだそうだ。 「匿名・流動型犯罪グループ」の略称らしい。これに関する犯罪は、特殊詐欺、投資詐欺、強盗、窃盗、リフォーム詐欺、オンラインカジノ賭博などさまざまな領域に及ぶ。2022年に、全国各地で殺人や傷害を伴う強盗事件を起こした「ルフィ広域強盗事件」が暴かれ、こうした凶悪犯罪の横行を広く国民に知らしめたのは記憶に新しい。 【写真】〝闇バイト〟に参加した受刑者が刑務所から記者に寄せた手紙。事件直後に「やばい」という気持ちが渦巻いていたことを明かした =2022年3月、宮武祐希撮影 この事件は、「ルフィ」と名乗っていた匿名の指示役が、タイやフィリピンといった海外を拠点に、SNSで集めた実行役に命じて犯行を重ねていたわけだが、この一味が逮捕された後も、こうした形の凶行が後を絶たない。警察によれば、24年4月から10月までの間に4472人が摘発されているという。もはや社会現象とまでなっているのだ。
甘言に惑わされる若者たちだが
こんな非道を繰り返す「トクリュウ」は、決して許してはならず、社会の敵として厳しく対処していくべきなのは言うまでもなかろう。ただ、多くは若者である実行役に関しては、別の視点でも考えていく必要があるのではないか。「ホワイト案件」とうたって犯罪性を隠し、簡単な仕事で即日即金高額収入とあおるSNS上の甘言に惑わされて登録するや否や、身分証明書や家族の情報を提供させられ、それを使った脅しで服従させられる。 安全圏にいる指示役からの命令に逆らえず、操り人形よろしく犯罪行為を強要されて最悪は殺人犯にまで仕立てられる。少額の報酬と引き換えに、逮捕される役を引き受ける羽目になるのだ。いわゆる「闇バイト」である。割に合わないこと、この上ない。ある意味では被害者ではないか、と同情の念さえ浮かんでしまわないだろうか。
交通費なく歩いて犯行現場へ……
たしかに罪は罪。殺されたり傷つけられたり盗まれたりした本当の被害者のことを考えれば、やはり加害者なのであって許すわけにはいかない。指示役からだまされたのも、己の思慮分別、判断能力や思考能力が不足していたが故であるのは否めないところだ。物欲とか虚栄心とかを満たすために、楽して稼ごうとの不心得な動機で応募した者もいただろう。 しかし、貧困生活に耐えかねてワラにもすがる思いで「闇バイト」に手を染める結果となった例も少なくはなさそうだ。盗みに入るよう指示された家へ向かう交通費がなくて、遠い道のりを徒歩で赴いた実行役もいたらしい。そんな若者の貧困生活ぶりに関しては、われわれ大人としても、自己責任と決めつけるわけにはいかない面もあるのではないか。