イランの地下世界で「隠れキリシタン」が増える意外な真相…!いま若者たちが「イスラムをやめるワケ」
浮かび上がるイランの「地下世界」
イスラム体制による独裁的な権威主義国家、イラン。その国民は、厳しい戒律を守り、つつましく生きている――。日本人の多くがイラン人に対してこんなイメージを持っていることだろうが、実態は違う。 【写真】こんな北朝鮮、見たことない…!写真家が29年間撮り続けた「凄すぎる光景」 このほど発刊された『イランの地下世界』(角川新書)は、我々日本人のイランへのイメージを見事なまでに裏切ってくれるだろう。 前編「「イランの地下世界」を20年歩いて見えた…! 日本人が知らない、信仰心のない「イスラム・ヤクザ」の正体」に続いて、著者の若宮總さんの話をお届けする。 若宮さんは、10代でイランに魅せられ、20代以降は留学や仕事でイランに長期滞在した生粋のイラン・オタクだ。 長年、中東イランとともに暮らす中で得た経験をもとに「イラン人の今」「宗教観」など、日本であまり描かれてこなかったイラン社会の実相や人々の生活のありようが描かれている。 特に、イランではイスラム法に基づいて厳しい戒律を求めるイスラム共和国政府と国民の対立が続いている。 2022年9月16日、イランの首都テヘランで女性の髪を覆うスカーフ・ヘジャブの着用をめぐりイランの風紀警察に拘束された女性マフサ・アミニさん(22)が留置場で命を落とした。 政権側は「病死」と主張したが暴行死の疑惑が浮上。国民に不信感が広がり、イラン各地で市民の抗議デモが起こる事態となった。 ところが、デモ隊は治安部隊による弾圧を受け、一説には530名以上の市民が命を落としたとされる。 このようにイランでは、体制への反発が大きくなり変化の渦中にある。では、イラン社会はどのように変化しようとしているのか。若宮さんに話を聞いた。
国民への強制で壊れた「イスラムの教え」
――22年9月16日にマフサ・アミニさんが、スカーフの着用をめぐり治安当局に命を奪われた疑惑に端を発するデモから「スカーフ着用」をめぐるイラン社会が大きく変わっていくさまも本書では描かれています。 日本では、7世紀に仏教が伝来して以降、力を増した僧侶たちが比叡山で織田信長に焼き討ちされ、江戸時代には完全に幕府権力に取り込まれてしまいました。そうした弾圧の結果、宗教が政治の舞台から退くというプロセスが日本にはありました。 一方イランではそうした血で血を洗うようなプロセスは起こりませんでした。 イランでは20世紀、レザー・シャー(レザー・シャー・パフラヴィ―、パフラヴィ―朝初代皇帝)が登場し一気に世俗化が進み、イスラム勢力を抑え込もうという動きも見られましたが、道半ばで終わってしまった。 1979年に起こったイスラム革命(イラン革命)で、イスラム法学者が国の最高権力者となるイラン・イスラム共和国となりました。政教一致の体制の中で、スカーフの着用を強制することをはじめ、抑圧的な政策も行われたのです。 いま、国民には政府が厳格に押し付けるイスラムの規範に対する反発があるのです。それを本書では「イスラム疲れ」と表現しています。 ただし、抑圧的な政策のためにイスラムが悪用されたことで、イランの人がイスラムに対して一面的な見方しかできなくなっているという側面もあると思います。 決して、イスラムが特殊な宗教なのではなく、イラン革命とその後のイスラム共和国がイスラムを壊したとさえ、言えるかもしれません。 ――国家権力がイスラムを使って統治しようとするあまり、かえってイスラムの持つ力が失われてしまったのであれば、皮肉な話ですね。 そうかもしれません。 イランはイスラム革命後、イスラムイデオロギーに基づきパレスチナを支援するようになりました。 色々な国に散らばるシーア派の人々を支援したり、他のアラブ人にも手を差し伸べたりもしている。イスラム革命は民族対立や国境線で分断された対立関係を解消するイデオロギーとして出てきた側面は確かにありました。 しかし、実際には対立は解消されませんでした。なぜなら、イラン人にとってイスラムはやはり外来宗教だからです。 元々イランの人々の頭の中には「イスラム化と同時に征服された」という意識があるのです。いにしえのペルシャ帝国は、イラン高原を中心に中央アジアからアナトリア、エジプトにまで及ぶ巨大な帝国を築き、文化的にも政治的にも進んでいました。 しかし、7世紀に台頭したアラブ人のイスラム帝国に占領されて、その後の2世紀あまり宗教はおろか、言葉もアラビア語を強制された。 その歴史的怨念のようなものをイランの人々は持っています。 そのため「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ではないですが、イラン国民を抑圧しているイスラム共和国政府が支援するパレスチナは敵だと判断する一方で、「敵の敵は味方だ」と言わんばかりにイスラエルを支持する人々も出てきているのです。