ディズニー、USJが1万円の大台に…“高価格化”が進むテーマパークの「やむを得ない事情」
「量から質へ」の転換が加速する理由
イマーシブ・フォート東京でも同様だ。そのオープニングセレモニーで森岡氏はこう述べる。現在のテーマパークは、多くのゲストを入場させて同じ体験をさせるモデルである。しかし、イマーシブ・フォート東京ではそれを変え、「一人ひとりに違う体験をさせる」ことを目指している、というのだ。 少し補足すると、イマーシブ・フォート東京で楽しめるのは、「イマーシブシアター」という参加型演劇の形式を採ったアトラクションで、これはゲストがそのアトラクションに一人の参加者として入り込むもの。客の反応や選択によって、そのアトラクションの内容が変わるのだ。だから森岡氏は「一人ひとりに違う体験をさせる」ことができる、というわけである。 こうしたアトラクションの性質上、一回でそれを体験できる人は限られている。例えば、「江戸花魁奇譚」では、ショーを構成する出演者15人に対して、それを体験するゲストの数は30人。それだけ濃密な体験ができるのだ。逆に、人件費などを考えれば、それだけ値段が高くなることもやむを得ないということである。まさに「量から質へ」を体現しているのが、イマーシブ・フォート東京なのである。 テーマパークが日本にやってきてから約40年。当初は、「テーマパーク」なだけで人気だったものも、絶対数が増えるにつれて、そうはいかなくなる。そこで従来の「量」をさばくやり方から、それぞれのゲストの「質」を取る方向に全体がシフトしているのだともいえる。
テーマパーク以外の観光地でも「消費額を増やしていく」方向性
実は、「量から質へ」の転換は、テーマパークだけで起こっているのではない。 観光産業全体の昨今のトレンドでもある。2023年3月に閣議決定された「観光立国推進基本計画」では、今後の日本全体の観光の方向性として、「量から質」への転換が謳われている。そこでは、これまでのような観光客の量に依存して収支を取るのではなく、一人一人の消費額を増やしていく方向で観光地を形作ることが目指されている。こうした背景には、コロナ禍を経験したことにより、観光客の量だけに頼ってしまう危険性が露呈したことや、昨今話題になっている「オーバーツーリズム」(観光客の増大により、地域住民の生活に悪影響が出たり、観光地の質が低下してしまうこと)の問題も関係していると思われる。 例えば、国内外に69の施設を持つ星野リゾートの代表である星野佳路氏は、とあるインタビューの中で明確に「これからの観光はコロナ禍前に出来なかった量から質への転換が重要だと考えています」と述べ、自社での沖縄のプロジェクトについて説明する。そこでは客単価を下げず、社員教育を徹底して、サービスを徹底させていった経緯も語られている。