全力で筋トレしてはいけません! 75歳にして現役の武術家・運動科学者が提唱する「筋トレ革命」とその中身
「力み」の弊害(1) 筋出力を妨げる
ここで、全力でラフ筋トレに励んでいる人を思い浮かべてみてください。たとえばベンチプレスがいいでしょう。 眉間にしわを寄せ、歯を食いしばり、全身をこわばらせ、とくに肩関節まわりの三角筋や大胸筋など肩まわりの筋肉に力をみなぎらせて、何度もバーベルを上下させ、ついに「アアーッ」と咆哮(ほうこう)してラスト1回を終える──そんなイメージが浮かぶかもしれませんが、それこそ典型的な「ラフ筋トレ」です。 彼の全身には、力がみなぎっています。「みなぎっている」と表現すると、いかにもいいことのように聞こえますが、実際には必要のない「力み」が身体中に広がっているのです。さらに詳しく説明すると、まったく収縮する必要のないたくさんの筋肉にまで力が入り、肝心な主働筋にさえ力みが入っているのです。苦悶に顔を歪めて筋トレに励むアスリートに、「真に必要な筋肉以外の全身をリラックスして、顔の表情を平静にしてごらん」と指示したところ、途端にパワーが落ち、あるいは「そんなことできなーいっ!」と絶叫して果てる──そんな場面を私は何度も見てきました。 この力みが筋出力を妨げ、同時に脳に余計かつ過重な負荷をかけるせいで、パフォーマンスが低下するのです。
「力み」の弊害(2) パフォーマンスを妨げる
たとえばダンベルを握り、肘を曲げて持ち上げる動作を想像してみてください。上腕二頭筋がグッと収縮して「力こぶ」ができるでしょう。 この上腕二頭筋のように、ある動作を行うときに主役となる筋肉を「主働筋(しゅどうきん)」と呼びますが、動作の前から用もないのに主働筋が固まって筋収縮を起こしていたら(すなわち、力んでいたら)、それは力の無駄遣いでしょう。その上腕二頭筋が発揮できたはずの力が十分に出せなくなってしまいます。 つまり、力んでいてはダメで、力が抜けてゆるんでいる、すなわち脱力や緩解(かんかい)がうまくできていないと、筋収縮が下手になるわけです。 その筋肉が可能性としてもっているはずの筋収縮能力を100%発揮できずに終わってしまう──そう言い換えてもいいでしょう。 問題はそれだけではありません。ダンベルを持ち上げたあとは、重力の力を借りながら上腕三頭筋が筋収縮して肘を伸展させます。 主働筋(ここでは上腕二頭筋)と正反対の働きをすることから、この場合の上腕三頭筋は「拮抗筋(きっこうきん)」と呼ばれますが、仮にダンベルを持ち上げようとする前からこの拮抗筋が力んでいたら、どうでしょう。間違いなく主働筋の働きを妨げてしまいます。 全身がゆるゆるにゆるみ、拮抗筋にも力みがなく、それどころか、ほかの筋肉もゆるゆるにゆるんでいて、もちろん主働筋が100%ゆるんでいて存分に活躍するという、そんな状態が前提として成立していなければ、正しく優れたパフォーマンスは決して発揮できません。 しかるに、その程度はさまざまですが、ほとんどの人は主働筋も拮抗筋も用もないのに固まって筋収縮し、無駄に力んでいる状態にあります。この状態から逃れられているのは世界のトップ・オブ・トップのアスリートだけで、それも調子のいいときに限られているのが現実です。 優れた筋収縮能力を発揮するためには、主働筋がマシュマロやつきたてのモチのようにやわらかい状態でなければいけません。力を抜いたときには、キレイに脱力し、ゆるみときほぐしきれることが大事なのです。