全力で筋トレしてはいけません! 75歳にして現役の武術家・運動科学者が提唱する「筋トレ革命」とその中身
「力み」の弊害(3) 脳に余計な負担がかかる
みなさんが自分の身体を動かせるのは、脳から電気信号が発せられ、神経を伝わって筋肉に届くからです。すなわち、身体には情報伝達のシステムがあるのです。しかし、情報は「脳→筋肉」へと一方的に伝えられているわけではありません。 「前庭(ぜんてい)」という器官をご存知でしょうか。前庭は内耳にあり、身体のバランスを計測する「センサー」として機能しています。 ところが、センサー機能を担になっているのは前庭だけではありません。実は全身の筋肉にも膨大な数のセンサー(感覚受容器)が備わっていて、それらは「筋紡錘(きんぼうすい)」と呼ばれています。さらに言うと、そうしたセンサーは骨にも備わっているのです。 すなわち私たちの身体は、その内側のあらゆる場所がびっしりとセンサーに覆われている状態なのです。 そしてそれらのセンサーから、筋肉に作用している張力、骨にかかる圧力、身体の傾き具合……などのおびただしい情報が時々刻々と、それこそ一瞬の隙もなく脳に送られています。その送られた情報は、潜在脳で統合・把握され次に何をするか、どう動くべきか、といったスーパーコンピューターさながらの計算が行われます。 このとき筋肉に「力み」があると、この計算は正しく適切には行われなくなります。 人体には常時、重力がかかっています。重力下で正確、精妙なパフォーマンスをイメージしたとおりに行おうと思ったら、重力に抗して望ましい動きをするのにどれほどの力がいるのか、といった計算が本来行われるべきでしょう。 筋肉の余計な「力み」は、重力とは無関係にかかっている無駄で不要な張力にほかなりませんが、そのような無駄で不要な情報も、潜在脳は感知しています。 身体には、約200個の骨と500以上の筋肉がありますが、それを3次元空間のなかに配置して動かす方法は無限にあります。余計な「力み」があると、無駄な情報が大量に脳に送りこまれることとなり、脳にかかる負荷が増え、正確な計算が妨げられます。 スポーツ選手が緊張したり、疲労したり、あるいはもともと力みやすいタイプの選手だったりすると、動きがぎこちなく、コントロール能力も発揮できずに、シャープで滑らかでスピーディーな動きができません。それは脱力ができていない、すなわち身体がゆるんでいないために無駄な情報が大量に脳に送り込まれているせいです。だから徹底的に緩解脱力をしなくてはならないのです。 これを逆に言えば、徹底的にゆるみ、脱力すれば、脳にかかる無駄な負担が減るので、精神は清明で気持ちには余裕ができ、思考力も明快になるのです。筋肉も、本来の力と機能を発揮できるようになるのです。だから「こういうトレーニング(レフ筋トレ)をやると頭がよくなるのですか?」と尋ねられたら、その答えはもちろんイエスです。 続きは>ヘ続きます。
高岡 英夫