「年金だけでは余生はムリ」…そんなの誰もがわかっているのに年金改革が進まない理由
ニューヨークの街中で冬の午後、実験者が歩道に立って空を見上げます。この人数を1人、2人、3人、5人、10人、15人と変えて、それを見た通行人の反応を観察します。 実験者の行動は決まったパターンの繰り返しです。指定の場所で立ち止まり、通りの向かい側にあるビルの6階の窓を60秒間見上げ、その後に立ち去ります。一定時間経つと今度は別の「見上げる人」が同じ場所で同様の行為を行います。この実験の間に通りがかった通行人は全部で1424人です。そのうち、何人がつられて見上げたかを数えました。 その結果、見上げるのが1人の時に立ち止まったのは通行人の4%、15人が見上げると40%が立ち止まりました。さらに、つられて窓を見上げた割合は、見上げるのが1人の時は43%、15人のときは86%でした。皆が注目するものには自分も反応し、合わせるという同調効果が実験で検証されました。 今回の2000万円問題も、ニュースやネットで注目が集まっていることを知った人々が、同調効果によって自らも注目しました。この同調の輪が拡大することで、今回のような騒ぎになったと考えられます。
● 自分では用意できない金額を 提示された人々が不安を感じた もう1つ、2000万円という数字がなぜ不安を煽ったのかも疑問です。これは「アンカリング」の影響です。アンカリングは、先行する何らかの数値によって、その後の判断が歪められるものです。 ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーは、これを実証する以下の実験を行いました。「国連加盟国のうち、アフリカの国の割合はいくらか」を対象者に尋ねる実験です。ただし、その前に1つの質問をするのです。半数には「アフリカの国の割合は65%よりも大きいか小さいか」と尋ね、残りの半数には「アフリカの国の割合は10%よりも大きいか小さいか」尋ねます。 その結果、65%と比較した対象者における回答の中央値は「45%」でした。10%と比較した対象者は「25%」でした。つまり、事前質問での数字がアンカーとなって、65%と比較した人のほうが10%と比較した人よりも高い数字を回答したのです。 今回の騒動においては、独り歩きした「2000万円」という数字を評価するにあたって皆、自分で用意できるお金、即ち預貯金額を頭に思い浮かべました。この時点での自分の預貯金額がアンカーとなります。