輸血は今― 血液供給 解決なるか ブラッドローテーションとは?
鹿児島県奄美大島での輸血用血液製剤確保が、島外からの入手が必要となったことにより一定の時間を要している問題で、解決への一案として県議会でたびたび話題に出る「ブラッドローテーション」。どのような仕組みで、何が問題となっているのだろうか。 ■血液は「返品できない」 病院で日々行われている輸血。使用される血液は、医療機関が日本で唯一の輸血用血液製剤の製造販売業者・日本赤十字社から買い取っている血液製剤だ。 高い安全性を誇る日赤の血液製剤。温度管理に始まる徹底した品質保持が求められるため、日赤は品質保証の観点から、一度医療機関に払い出した血液製剤の返品や再出庫を、原則として認めていない。 ブラッドローテーションは、その返品と再出庫を可能にした血液供給体制。長時間、厳密な温度管理ができる血液搬送用冷蔵装置の開発で技術的に可能になり、東京都の小笠原諸島では実施されるようになった。 ■廃棄率削減に効果 奄美大島でも、この専用冷蔵庫を使ったブラッドローテーションの実験が2019年に行われた。 目的は廃棄血の削減。18年3月に日赤が業務委託していた血液備蓄所が奄美大島から撤退した影響で、県立大島病院では院内で血液製剤の備蓄が必要となり、多くの期限切れ血液が廃棄されていたことが問題となっていた。 ブラッドローテーションを導入すれば、使い切れない血液製剤は県本土へ返品でき、輸血頻度の多い病院で有効利用することができる。 8カ月間の実証実験の結果、血液はすべて有効に利用され、県立大島病院での廃棄率は減少した。 ■課題と限界 課題もある。 運べる血液製剤が赤血球製剤に限られることだ。輸血用の血液製剤には4種類ある。主なものは赤い赤血球製剤。全身に酸素を運搬する役割があり、貧血時や外科手術などで使われる。問題は有効期限の短さ。採血してから28日間しかない。 一方、大量出血などの止血に必要になるのは「新鮮凍結血漿(けっしょう)」と呼ばれる黄色の血液。傷のかさぶたを作る役割がある。 ブラッドローテーションの専用冷蔵装置で運べるのは赤血球製剤のみ。止血に必要な新鮮凍結血漿には対応できない。県立大島病院は「赤血球製剤のみでは輸血医療は行えない」と指摘する。 また、この仕組みについては「県立大島病院だけがメリットを享受できるものであり、現状では地域全体に寄与する仕組みではない」との声もある。 供給する血液センターから挙がる課題もある。有効期限が短くなった血液製剤を受け取る立場として、再出庫する先の医療機関をどう確保していくかだ。これについて日赤は、県行政の関与と調整の必要性を訴えている。 ブラッドローテーションは撤退した備蓄所に代わる血液の安定供給策となるのか。「あすはわが身」との思いで議論の行方に注目したい。
奄美の南海日日新聞