夢の強要を助長?キャリア教育や探究の落とし穴 大人は好奇心を保護してソーシャルサポートを
「夢の強要」の問題提起から4年、何が変わったか?
2020年に『ドリーム・ハラスメント「夢」で若者を追い詰める大人たち』(イースト・プレス)を出版し、若者が夢を強要されている実態や構造について言及した高部大問氏。その後4年が経過したが、その間に教育現場では新しい学習指導要領がスタートしてキャリア・パスポートも導入されるなど大きな変化があった。キャリア教育が推進される中、教育現場における「夢の強要」は、解消されつつあるのだろうか。 【写真】ドリーム・ハラスメントを受けた子どもたちの心配な反応「4タイプ」とは? 「ドリーム・ハラスメント」(以下、ドリハラ)とは、いったい何か。一口に言えば「夢の強要」となるが、さらに言えば「夢を持てと、とくに若い人に対して強要すること」だと教育思想家の高部大問氏は定義する。 高部氏は、リクルートで新卒採用や他社採用支援業務などを担当後、大学の事務職員に転身。その傍ら、中高生やその保護者、教員に向けたキャリア講演活動も行ってきた。一貫して教育に関心を持っており、現在は社会福祉法人で採用関連のマネジャーを務めながら、引き続き講演や執筆活動を続けている。 そんな高部氏は、ドリハラの問題意識を持ったきっかけについて次のように述べる。 「2014年頃から中学校や高校に講演に出かけており、そこでたまたま夢の話をする機会がありました。講演では毎回、質疑応答やアンケートを行うのですが、その回答を見れば見るほど、話を聞けば聞くほど夢を強要されている生徒たちの実態が浮き彫りになったのです。当時、出会った生徒は1万人を超えていましたが、少なく見積もっても4人に1人以上は夢の強要に苦しんでおり、これは生徒に対するハラスメントだと言っても過言ではないと考えるようになりました」 今でも高部氏が鮮明に覚えているのは「おまえは夢がないから、ろくな人生を送れない」と保護者に言われ憤る生徒や、「夢を持て、という風潮はクソだ」と吐き捨てる生徒たちの生の言葉だ。それも1人や2人ではない。助けを求めるような生徒たちの悲鳴を高部氏はたくさん聞いてきた。 学校側に話を聞いてみると、夢を起点とする指導について「進路指導では使いやすいし、わかりやすい手法なので、どうしても使ってしまう」という声も少なくなかったという。 高部氏が、そうしたドリハラの現状について、2020年に著書『ドリーム・ハラスメント「夢」で若者を追い詰める大人たち』で問題提起してから4年。何か変化はあったのだろうか。 「1つは、この問題意識が社会的、あるいは世間的に共有されつつあると感じており、これはポジティブな変化だと捉えています。その一方で、副作用も出てきているように感じます」と、高部氏は言う。 例えば、SNSなどで「ドリハラなんて言葉があると、若い人に夢について聞けなくなる。コミュニケーションが取りづらい」といった声が散見されるという。しかし、高部氏は、決して「夢を持つな」と主張しているわけではないと話す。 「夢を持つことを否定しているわけではありません。むしろ夢に向かって歩んだ人をリスペクトしていますし、子どもたちとじっくり向き合っている中で、『夢はあるの?』と聞くことを否定しているわけではありません。ただ、夢は強要されるものではないと言いたいのです。夢は自然と持つもの。社会人になって初めて思い浮かぶとか、多くの出会いを通じて出てくることも往々にあります。そうした考え方や多様な生き方を許容してほしい。今は、そのあたりの問題が解決されるまでの過渡期にあると感じています」