「働き控え」解消狙い、「在職老齢年金」見直しへ…将来世代の給付水準押し下げの恐れも
厚生労働省が、一定の収入がある高齢者の厚生年金を減額する「在職老齢年金」制度の見直しに着手するのは、高齢者の「働き控え」問題を解消し、深刻化する人手不足に対応するためだ。働く高齢者の年金の受給額は増えるものの、将来世代の給付水準を押し下げる恐れがある。 【図表】さっと分かる…「在職老齢年金」制度の見直しのイメージ
総務省の集計によると、2023年の就業者6747万人のうち、65歳以上は過去最多の914万人に上り、働く人全体の13・5%を占める。高齢者の就業率は25・2%で、4人に1人が働いている計算だ。
政府は9月に改定した高齢社会対策大綱で、65~69歳の就業率を23年の52%から29年に57%に引き上げる目標を掲げた。生産年齢人口の急減に危機感を示し、「社会の持続可能性を確保するあらゆる備えが急務だ」と指摘した。
現行制度では、年金の減額を避けるため、給与と年金の合計額が50万円以内になるよう、働く時間を抑える高齢者が多く、人手不足に悩む経済界から見直しを求める声が出ていた。基準額の引き上げは、高齢者の働く意欲を促すことにつながりそうだ。
もっとも、給付額が増えれば、年金財政を圧迫し、将来世代の給付水準を低下させる要因ともなり得る。基準額を62万円に引き上げた場合は、2200億円の財源が新たに必要となる。「収入が多い高齢者を優遇することになる」と否定的な意見もある。
一方、厚労省では、厚生年金の積立金を活用して基礎年金(国民年金)の底上げを図る案も検討している。物価や賃金の伸びより年金額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」と呼ぶ仕組みは、積立金が潤沢な厚生年金では26年度に終了するが、基礎年金では57年度まで続く予定だ。この二つの終了期間を一致させ、厚生年金の受給を抑制する期間を延ばすことで、基礎年金の給付水準を3割程度高める案を念頭に置いている。