師匠や上司の仕事は「我慢」に他ならない 落語家・古今亭菊之丞が師匠に言われた「お前には志ん生の家の修業をさせる」
江戸時代から続く歴史があり、人間力や教養が高まるとビジネスリーダーから好まれている落語。その特性とビジネススキルを掛け合わせ、落語を聴くようにすんなり理解できる「落語家に学ぶ仕事のヒント」。 今回登場するのは、古今亭菊之丞さん。テーマは「次世代の育成と指導」です。 「下積みを重ねるという考え方は古い」と言われることもありますが、落語は前座、二ツ目と修業を積み、15年以上かけてようやく真打に昇進できる世界。 菊之丞さんは「落語自体は誰でもできる」と話します。それなのに、なぜ長きにわたる修業が必要なのか。非効率にも思える落語界の育成の背景を聞きました。
【古今亭菊之丞 KIKUNOJOKOKONTEI】 1972年生まれ。中学生のとき、落語好きの先生に影響され、落語に興味を持つ。 1991年、二代目古今亭圓菊に入門。2003年、真打昇進。2020年、落語協会理事に就任。 落語以外にも声優や俳優として活躍中。NHK大河ドラマ「いだてん」では俳優として出演したほか、ビートたけしなど俳優陣に落語監修や江戸ことばの指導を行う。弟子は古今亭雛菊。
365日、師匠の家に通わせる理由
落語は師匠の完コピから始めます。録音機材がなかった時代は「三べん稽古」といって、マンツーマンで師匠に3回同じ噺をやってもらい、「4回目はあなたがやってごらんなさい」というやり方でした。 今はさすがに録音はさせてもらえますけど、動画だけはだめなんですよ。「またあとで見ればいいや」って保険があると気が緩んじゃいますから。「この場で見て覚えなきゃ」と思うから、一挙手一投足を目に焼き付けようと思うわけです。 師匠から受ける理不尽の数々もまた、修業の一つ。 落語家はお客さまあっての商売ですから、時には無理を言われることもあります。そのときに「できません」なんて言えません。つまりお客さまに合わせるための耐性を、修業を通じて身につけているんですね。 なんせ師匠の理不尽と比べたら、お客さまの理不尽なんてかわいいもんです。うちの師匠(圓菊)の場合、昨日と今日で言っていることが違うなんて当たり前でした。