師匠や上司の仕事は「我慢」に他ならない 落語家・古今亭菊之丞が師匠に言われた「お前には志ん生の家の修業をさせる」
最近は「似てるって言われてうれしい」みたいなことも言っているらしいですけど、悪いところほど似るなと思います。だから「外行け」って言うんですけど。 皆さんからすると「弟子は師匠の言う通り何でもやる」ってイメージがあるでしょうけど、師匠業って我慢ですよ。「子を持って知る親の恩」なんて言いますが、私は弟子を取ってから「うちの師匠ってこんなに我慢してたんだ」と思いました。 師匠は弟子に対して言いたい放題言っているように見えていましたが、そもそも弟子なんていないほうが楽なんです。毎日小言を言いつつも自分の家に通わせていたのは、我慢に他ならないですよ。 痛風って美食家がなると思われていますけど、実はストレスが大きな原因で。うちの師匠は痛風持ちだったんですけど、実は私も弟子を取った途端に痛風が出たんですよ。いきなり足が痛くなって歩けなくなっちゃった。 そのくらい、頑張って我慢しているわけです。
弟子や部下を持つ=大変なこと
特に最初の弟子はもう、お互い大変です。どう付き合っていけばいいのか、師匠も弟子も分かりませんから。 うちには雛菊の前に何人か弟子がいましたけど、ことごとくやめていきました。弟子にも何度だって食らいついてくるガッツは必要ですけど、うちのかみさんに言わせると「最初の頃の子はかわいそうだったね」って。
こっちも師匠業は初めてでしたから、自分の師匠をお手本にきつく言いすぎたところはあったかもしれません。そこから弟子が増えて経験を積んで、こちらも我慢ができるようになっていったように思います。 私としては、うちの師匠みたいに「うるせぇ」じゃなくて、今の子に分かりやすいようにしているつもりなんですけど……向こうからすると、私はものすごい理不尽なんでしょうね、きっと。 雛菊にも反抗期はずいぶんありました。ふてくされてね。何度も「もう来なくていい」って言いましたけど、そのたびに「すいませんでした」って。 師匠にたてつくなんて私らの頃じゃ考えられなかったですけど、雛菊は甘えてるんでしょうね。ふてくされたってクビにはしないだろうって、高をくくっていたのかもしれません。 ふてくされているときは放っとくよりしょうがないから、やっぱり型にはめないで好きにやらせておくしかありません。 ちょっと違うなと思ってもギリギリまで野放しにして、よほど路線が外れているようだったらアドバイスをする。 それはね、大変なことですよ。自分の知らないところでとんでもないことをしていたらまずいわけですから、こちらは常に見守っておかなきゃいけない。 だから弟子や部下を持つっていうのは、どの世界でも大変なんだと思います。
執筆:天野夏海 撮影:大橋友樹 デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio) 編集:奈良岡崇子