「給食はまるで修行」完食指導で登校さえも苦痛に 食の悩み、どう解決 #令和の子
一方で、完食指導にも変化の兆しが見られるようになってきたと山口さんは指摘します。 山口さん「近年では、無理に食べさせないという指導に変わりつつあります。文部科学省も、苦手なものは段階的に勧めることを発信しています※2。食べられない子どもには量の調整も行っているケースが多くなりつつありますが、とはいえ『減らしたんだから食べなさい』というプレッシャーは依然として残っているようです。これまでより、1段階改善したからこその課題といえるかもしれません」 食べられない場合は、匂いをかぐ、ペロッとなめてみる、ひと口だけ口にするなど、「食べる前」にステップを設けて、できる部分まででよしとする。そんなスローステップを山口さんは勧めています。 前述の鈴木さんの子どもが通う学校も、給食指導に変化が見られるようになったと言います。 鈴木さん「校長先生が変わり、職員会議で『給食は楽しんで食べるもの。無理に食べなくていい』と明言されました。完食指導の問題がニュースになっていることも影響しているのかもしれません。子どもはまだ給食をノルマのように感じて苦手なままですが、給食の場自体は、嫌いという感情はないようです」 給食の苦手意識が消えたわけではないものの、家では用意が難しい料理を食べる機会があるなど、家庭ではできない食の広がりを持てるよさを感じることもあると言います。 ※2 参考:食に関する指導の手引-第二次改訂版-(平成31年3月)第6章 個別的な相談指導の進め方 「偏食のある児童生徒」の項|文部科学省
誰もが「食べることが好き」なわけではない
完食を絶対とする風潮は、私たちが持つ固定概念も影響していると山口さんは指摘します。 山口さん「食欲は人間の三大欲求。だからこそ、食べることはできて当然という考えにとらわれているケースもあると思います。食べ盛りで成長ざかりの子どもは、なおさら食べることが好きなはず、給食は子どもにとって楽しいものと決め付けていることもあるのではないでしょうか」 実際、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会が2020年に行ったアンケート調査によると他人と食事をするのに苦手意識がある人は約半数(かなり苦手意識がある12.1%、やや苦手意識がある35.1%)(※3)。 山口さん「苦手意識がある子どもにとっては、食欲よりも苦痛を回避するほうが強い欲求。まずは、残しても怒られないなど、不安を取り除いてあげることが先決です」 前述の鈴木さんも「食べることは好きなはず」「食べないことはわがまま」という固定概念に親子ともに苦しんだと言います。 鈴木さん「食べさせることに、先生も保護者も必死になりすぎているのかもしれません。苦手なことは無理に指導するものではないし、アレルギーや発達障害など明確な理由がないと許されないという点も疑問です。 給食にこだわらず、その子の状況に応じて給食か、お弁当にするのかなど、柔軟に選ぶことができてもいいのではと思います。」 ※3 【図解】給食が「かなり苦手」な子どもの心境とは?クラスに約4人も | きゅうけん|月刊給食指導研修資料