「スタートアップはセクハラが常態化」女性起業家が改善訴える。投資家から自宅に呼び出しも
投資家から自宅マンションに呼び出され
当然、女性起業家同士で集まると、セクハラの被害を相談し合うような会話が生まれる。 そんな経験をするたび、そんな話を聞くたびに怒りが湧く一方で、「起業したのは私なんだから耐えなきゃいけない」と考えてしまう自分もいた。そんな価値観を内面化していたからこそ、もしこの業界で性被害に遭ってしまったとしても、「自己責任」と言われ、誰も助けてくれないことが容易に想像されて、ただただ怖かった。 一番血の気が引いたのは、ある投資家との会食だ。 直前に場所を指定され、向かうと相手のマンションのゲストルームだった時である。「ベッドやジャグジーのある部屋を明日の朝まで取ってある」と言われ、当時20歳だった私は恐怖で冷や汗が止まらなかった。 なんとか言い訳をしてその場を切り抜けたものの、会食の予定が入りそうになるたび、場所や時間にその後どれだけ気を張ったかわからない。そしてこの経験を私は誰にも相談できなかった。 被害までは及ばなくとも、ヒヤッとしたり、自分が「性的対象として見られないよう」努力したりする経験は、多くの女性起業家が味わったことがあるのではないだろうか。
「セクハラを乗り越えてこそ起業家」という嘘
私にとって「スタートアップ業界でセクハラが常態化している」ことは疑いようもない事実だったからこそ、今回のNHKの報道に対して、SNS上で「業界内で性暴力の加害者になる人なんていない」「被害は本当なのか?」と疑う投稿をする人がいたことにとても驚いた。 それらがセカンドレイプであることを指摘した私の投稿は、たくさんの誹謗中傷で埋め尽くされた。 中でも驚愕したのは、「セクハラを乗り越えられないなら、起業家に向いていない」というものだ。コメントを書き込んだ人は、「セクハラを提訴できないようなメンタリティでは、経営上のリーガルリスクに対応できない」と主張する。 被害者に非がないのは言うまでもないが、そもそもセクハラや性暴力は個人的な問題ではない。むしろ社会的な仕組みや構造に原因がある。 たとえば労働者へのセクシュアルハラスメントについては、男女雇用機会均等法に基づき雇用主がこれを防止する義務等を負っているが、経営者同士や、(経営者と)投資家、(経営者と)社外メンターとの関係において発生した被害については、法整備が十分とは言えない。 また性犯罪に該当したとしても、法務省「第5回犯罪被害実態(暗数)調査」によれば、性被害を捜査機関に届け出た人は全体の14.3%であり、被害者の多くは泣き寝入りしている。さらに伊藤詩織氏が著書「Black Box」に記述したように、性犯罪を警察に届け出たとしても「証拠がないから」「よくあることだから」と被害届が受理されないケースも多い。今の日本の制度上、犯人が検挙され、起訴に至るまでには幾重ものハードルを越えなくてはならない。 こうした現状の中、セクハラや性被害を個人の問題として矮小化することは、スタートアップ業界で現在進行形で起きている深刻な問題から目を背けることにほかならない。
江連千佳