2人は一度死んで新たに生まれ変わる…道長がこれまで以上に魅力的に感じるワケ。大河ドラマ『光る君へ』第42話考察レビュー
今の道長は“イケてない”
一方、見事に己の権力を示すことができた道長は公卿たちと宴に興じるが、どこか浮かない表情。これまで政の主導権を握るために権力を追い求めてきたが、そのせいで多くのものを踏み荒らしてきたことを顕信の件で自覚し、その上でなお、また誰かを傷つけてしまっていることに胸を痛めているのではないか。 そこまでしたのに三条天皇が妍子のもとに渡る様子は一向になく、道長はまひろ(吉高由里子)にアドバイスを求める。一条天皇と彰子(見上愛)は『源氏物語』を通して心交わすことができたが、三条天皇と妍子の間にはそういうものがない。あろうことか、作者であるまひろに「源氏の物語も、もはや役には立たぬのだ」と言ってしまう道長。 顕信に会いに行こうとして、騎馬で比叡山に登ったことで僧に石を投げつけられたこともそうだが、今の道長は何をやってもダメな状態で、ひとことで言うと“イケてない”。だけど、穏やかな物腰の奥から溢れ出す威圧感で有無を言わさず人を従わせてきた先週までの道長より、よっぽど人間味があって魅力的に感じるのは筆者だけだろうか。 その後、病に倒れた道長。人を通じて三条天皇に左大臣の辞表を提出し、宇治の別邸で療養をとる。しかし、病はなかなか回復せず、道長の表情には死の色が見え始めていた。 一方その頃、まひろは里帰りをしていた。娘・賢子(南沙良)と双寿丸(伊藤健太郎)の仲睦まじい様子を穏やかな表情で見守るまひろ。彰子は道長と帝の権力争いから息子たちを守るために兄弟との結束を深め、賢子は身分の差にとらわれず、己の目で人を見極める立派な娘になった。源氏物語を書き終え、女房としても母としても役目を終えたと思ったまひろは出家することも考えていた。 だが、そこに百舌彦が現れ、道長の病状を伝える。まだ幼かった道長とまひろが出会ったときから、2人のことをそばで見守ってきた百舌彦。夫婦として結ばれることはなかったが、別れてはまた出会ってを繰り返してきた道長とまひろの縁の深さ、絆の深さを誰よりも知っている。そんな百舌彦だからこそ、道長の生気を取り戻せるのはまひろしかいないと思ったのだろう。