極真空手の元チャンピオン山崎照朝さんは『使いにくい』男…権力にこびない、カネの奴隷にならない、暴力に屈しない
落合博満さんを中心に筆者が見聞きしたエピソードでつづるシリーズ。どうしても書いておきたい人がいる。筆者が尊敬してやまない格闘技ライターの山崎照朝さん。反骨という点で落合さんに通じるものがあるのです。 ◆山崎照朝さん、170㌢を超える相手のはるか頭上に蹴りを放っていた【写真】 ◇ ◇ 現役時代、落合さんはよくこう言った。「おれは使いやすいぞ。だって野球だけやらしておけばいいんだからな」。ところが実際はそうは行かない。いろいろな思惑に敏感で、筋が通らないとたちまち拒絶反応が起きる。極真空手の元チャンピオン山崎照朝さんもそんな一人である。 出会いは、埼玉県内のスーパー駐車場に設けられた女子プロレス会場だった。40年近くも前になる。取材のタイトルは「水着の秘密」。記者が抱く疑問を解き明かす企画取材で、なぜ試合中にポロリが起きないのか解明に出かけた。若気の至りとはいえ、いま明かすのも恥ずかしい。その時、「中日スポーツの記者が来てると聞いてね」と声をかけてくれたのが山崎さんだった。 山崎さんは、今年大ヒットしたNetflixドラマ「極悪女王」に登場するクラッシュギャルズを当時、指導していた。筆者はその存在を知らなかったが、試合後食事に誘われ、一発で人柄にひかれた。正直に取材目的を話すと笑っていた。ちなみにリングのコスチュームは、市販の水着のゴムひもを抜き、固いひもに替えてズレないようにしていた。ただ、キックした靴の先がお尻に食い込み、水着が裂けたハプニングがあった話などを書いた。残念ながら、もとい、取材で聞いただけで目撃はしていないい。 一度だけ山崎さんにダメだしされたことがある。ボクシング取材で名古屋に出張するというのでホテルを予約した。半額券があったので高級ホテルを用意したらお気に召さず、その次は料金はほぼ同じだがシンプルなビジネスホテルにしたら「これだよ」と感謝された。 空手の名声は一切利用せず、大学卒業を機会に引退。普通に就職活動をして広告会社に入った。だがマスコミがほっておくはずはなく格闘技ライターを兼務した。仕事もできたため会社でも着実に出世コースを歩んでいたが、納得できないことがありあっさり辞めた。 山崎さんは(1)権力にこびない(2)カネの奴隷にならない(3)暴力に屈しない、を地で行く人である。仕事だけ任せておけばこんなに確かな人はいないが、私利私欲の思惑を抱く者にはこんなに使いにくい人もいない。筆者もよく「使いにくい」と言われるが、そうか、それはあれは褒め言葉なのか。 その後、山崎さんが漫画「あしたのジョー」力石徹のモデルだと分かり、高校時代は山梨県から夜行列車で東京・池袋の極真会館に通い、キックボクサーとしてもデビューした話などを企画記事で書いた。名古屋では反響はなかったが、西日本スポーツの部長に「あれ面白かった」と言われて驚いた。調べたら名古屋ではキックのテレビ中継はなく知名度は低かったが、放送があった福岡では有名人だったのだ。これは行ける、と連載を提案。それは森合正範記者の手で人気企画になった。 ▼増田護(ますだ・まもる)1957年生まれ。愛知県出身。中日新聞社に入社後は中日スポーツ記者としてプロ野球は中日、広島を担当。そのほか大相撲、アマチュア野球を担当し、五輪は4大会取材。中日スポーツ報道部長、月刊ドラゴンズ編集長を務めた。このシリーズが中日スポーツでは最後のコラムとなる。
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