【高校サッカー選手権】強豪校の監督に「勝てそうで勝てない」と言わしめる正智深谷が8年ぶり県制覇
第103回全国高校サッカー選手権埼玉予選決勝(11月17日・埼玉スタジアム)で、正智深谷が初優勝を目指した浦和学院に1-0で競り勝ち、8大会ぶり4度目の優勝を飾った。12月29日の全国高校選手権1回戦(12時5分・NACK5スタジアム)で、長崎総科大附(長崎)と対戦する。 【フォトギャラリー】正智深谷vs浦和学院 初顔合わせのファイナルは1点を争う激しい攻防となり、正智深谷が強みとするセットプレーから虎の子の1点をもぎ取った。 思えば浦和東との準々決勝も、CKから先制してFKで決勝点を挙げた。準決勝で聖望学園を倒した得点もCKだ。そして最終決戦でもまた、CKから“Vゴール”をもぎ取ったのだった。 前半18分に左CKを獲得した。キッカーは技術とパンチ力を兼ね備えた左利きのSB鹿倉颯太(3年)。ニアサイドに蹴り込んだボールは、MF大和田悠(3年)の体に当たって転がっていく。CB佐藤飛友(3年)が素早く寄せて右足シュートを放つと、相手に触れコースが変わってゴールに吸い込まれた。 主将の大和田が「セットプレーはうちの最大の強み」と言えば、司令塔のMF近藤七音(3年)も「今年はCKからの得点が多い」と口をそろえる。 4月の関東高校大会予選準々決勝で、武南から奪った3点のうち2点がFKとCKだ。延長にもつれ込んだ6月のインターハイ(総体)予選準決勝では、西武台に延長前半に先行されながらも、後半にCKから同点ゴールをたたき出している。 セットプレーのキッカーを担う鹿倉は「元々左足には自信がありましたが、練習を重ねてこの1年でさらに磨きがかかった。自分の左足でチームを勝たせることを目指しています」と胸を張り、プレースキックの練習には余念がないそうだ。 正智深谷はそう得点力が高いわけではない。今大会は5試合で14点を奪ったが、伊奈学園との初戦の2回戦で記録した8点が効いているに過ぎない。ベテランの小島時和監督も「ここ最近、うちには点取り屋がいないので、みんなで工夫して何とか取ってきたんですよ」と語る。 2013年の福岡インターハイで4強入りした陣容には、元日本代表FWオナイウ阿道(AJオセール/フランス)がいたし、第95回全国高校選手権はFW梶谷政仁(J2ブラウブリッツ秋田)を擁し、初めてベスト8に進んだ。かつては腕利きのストライカーが、チームを勝利に導いたものだ。 しかしエースFWが不在な上、流れの中から崩しの形をつくれなければ、CK、FK、ロングスローといったリスタートは貴重な得点源になる。決勝戦の後に指揮官は、「今日は得意のCKから(決勝点を)取れていい流れになった」とリスタートが大きな武器であることを述べている。 埼玉のある強豪校の監督がこう言った。 「勝てそうで勝てない。やれそうでやれなかった。それほど強烈な選手はいませんが、いつの間にかペースを持っていかれる。そんな時に失点するんですよ。正智深谷の強いというか、特長はこんなところにあると思います」 対戦校の選手も指導者も、同じような印象を持っているのかもしれないが、名うてのストライカーを抱えるチームより、不気味な存在ではないだろうか。 ファイナルで決勝点を挙げた佐藤は今大会初、今季の県1部(S1)リーグのゴールが高校入学後の初得点。まだ通算2点目だ。「(蹴った瞬間)入ってくれって思いました。『一致団結』がサッカー部のテーマで、スタンドも合わせて団結した結果が、ゴールと勝利につながった。あれはみんなで勝ち取ったゴールです」と言って、仲間に感謝しながら優勝の喜びをかみ締めた。 全国選手権の対戦相手が決まった。埼玉県勢の優勝は、第60回記念大会の武南以来42年も遠ざかり、準決勝進出すら31年ない。 正智深谷に寄せられる期待は大きいだけに小島監督も、「全国でもみんなで団結しひとつでも多く勝ちたい。埼玉は(長らく)ベスト4にも入っていないので、そこまで行けるように責任を持ってやりたい」と、晴れ舞台でも『一致団結』をスローガンに勝ち上がる覚悟を示した。 (文=河野正)