「ここまで売れた時計は見たことがない」シチズンで「史上最も売れた」時計はなぜ生まれたのか、モノ作り面だけでない新たなヒットの要素も
シチズン時計の普及価格帯の機械式腕時計、「”TSUYOSA” Collection」が世界的なヒットを巻き起こしている。 【写真を見る】「”TSUYOSA” Collection」は豊富なカラーバリエーションが特徴の1つ。フランスでは黄色カラーを前面に打ち出した広告を展開する 2021年、アジアで販売を開始。翌年に欧州で発売され、そこで一気に人気に火がついた。2023年にはアメリカや日本にも投入され、シチズンブランドで最も売れた時計となった。 シチズンは2024年でブランド誕生100周年を迎えるが、社内では「シチズン史上、最も売れた時計」との声も上がる。いったい何が世界的ヒットにつながったのか。
【写真】黄色カラーを前面に打ち出したフランスの店頭広告やアメリカでのシチズンの売り場の様子 ■「ラグスポ」のトレンドに乗る このコレクションは、1980年代に中国でヒットした「NH299 Series」をモチーフにしており、デザインはいたってシンプル。その中でも1つの特徴が、イエローやターコイズブルーなど、文字盤の豊富なカラーバリエーションにある。 文字盤は38㎜径と小ぶりで男女問わず使える。表面には頑丈なサファイヤガラスを採用し、ステンレスバンドは付け心地の良さにこだわる。それでも、自社グループ製のムーブメントの採用などで、国内価格を約6.5万円(ヨーロッパでは299ユーロ、アメリカでは450ドル)に抑えた。
こうしたモノ作りは、「ラグジュアリースポーツ」というトレンドを意識したものだった。高級感や耐久性を保ちつつ、シンプルでスポーティーな要素を取り入れた時計。最近ではロレックスやオメガなどの高級時計も、この「ラグスポ」の要素を取り入れている。最新のトレンドを押さえた機械式腕時計を手頃な価格で提供することで、普段使いの時計にも上質さを求める消費者の心をとらえた。 ただ、大ブレイクの要因は商品面だけではない。契機となったのが、2022年に販売を開始したフランスで、この時計に「愛称」がついたことだった。
その愛称が「TSUYOSA」。誰がつけたかは不明で、日本語の「強さ」という意味があるわけでもない。何となく日本語らしい響きという程度のものだったようだ。 それが瞬く間に、SNSで拡散。ファンの共通言語として浸透した。「TSUYOSA」のハッシュタグがついた投稿は、フランスからはもちろん、欧州全域、インドネシアなどアジアからも発信され、2024年2月時点で7500件以上に達する。 ■ネット上の拡散をシチズンが「追認」