「超高齢社会の被災者支援」という能登半島地震が突き付けた難題
民間頼みの医療・看護・介護サービス
以上、東日本大震災の経験だ。ただ、能登半島では、この方法がどの程度機能するかわからない。それは高齢化の度合いが違うからだ。能登半島の被災地では高齢化率が50%を超える地区も多く、多くの住民が病を抱えると同時に、要介護の状態にある。一部の住民の医療、介護問題を解決すればよかった浜通りとは、状況が異なる。 震災前、このような地域で重要な役割を果たしてきたのは、在宅医療、訪問看護、訪問介護だ。厚労省は、高齢化に対応すべく、このようなサービスの体制整備を進めてきた。ところが、このような自宅をベースとしたサービスは、災害時には機能しなくなる。家が破壊されれば、避難せざるを得ないし、交通機関が麻痺すればサービスは提供できないからだ。災害時には、彼らをどこかに収容して集中的にケアしなければならない。もちろん、阪神・淡路大震災や東日本大震災でも、このような高齢者はいたが、その数が違う。 国も、このことは認識していた。2016年4月、「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を発表している。そして、その中には「福祉避難所の指定」という項があり、「市町村は(中略)指定福祉避難所として指定する施設を選定し指定する」(引用は21年5月改訂版より)とある。つまり、認識はしていたものの、実態は民間の事業者への業務委託、要するに丸投げをした。 行政は要介護者の存在や家族構成を把握し、災害時の対応を準備していただろうか。おそらく、そのような自治体は少数のはずだ。災害が起こり、どこに誰がいるかわからず狼狽えたのではなかろうか。 一方、介護・福祉施設は慢性的な人手不足だ。災害が起こり、一気に医療や介護が必要な住民が押し寄せても対応できない。また、災害で通常業務ができなくなれば、収入が激減する。国公立組織と違い、倒産する可能性もある。ところが、このような組織に政府が運転資金を提供したという話は聞かない。 被災地を復興させるためには、多くは民間の組織が提供している医療・看護・介護サービスを、震災前同様に復活させなければならない。 だが、どうすればいいのか、誰にもわからない。能登半島地震で求められる災害対応は、従来のやり方とは違うからだ。従来の災害支援は、国・都道府県・市町村が連携してやってきた。医師や看護師派遣を担当したのは、日本赤十字社などの認可法人、国立病院機構などの独立行政法人だ。このような組織は、公平性の観点から、特定の民間組織を重点的に支援できない。