「超高齢社会の被災者支援」という能登半島地震が突き付けた難題
被災地高齢者の命を奪う「誤嚥性肺炎」
では、東日本大震災当時はどうだったろう。阪神・淡路大震災から16年が経っている。この年の日本の高齢化率は23.3%だ。現在のイタリア(24.1%)より若く、独(22.4%)、仏(21.7%)よりやや高いくらいだ。 実は、当時の被災地の多くも、そんなに高齢化は進んでいなかった。医療ガバナンス研究所が活動の拠点を置いている福島県相馬市の2010年の高齢化率は25.3%だった。福島第一原発が位置した大熊町も21.0%だ。現在の日本の高齢化率(29.1%)よりもはるかに低い。 福島県浜通りで何が起こったのか。医療ガバナンス研究所は、東日本大震災から13年間、相馬市など福島県浜通りでの活動を継続している。被災地で起こったことのおおよそを理解している。 東日本大震災直後、相馬市では死亡者数が急増した。2017年10月、相馬中央病院の森田知宏医師を中心とした研究チームは、厚労省が管理する人口動態調査を使って2006年から15年までの相馬市と南相馬市で死亡した住民の死亡原因を調べ、その結果を英国の『疫学・コミュニティヘルス』誌に発表した。 この研究によれば、2011年3月の死亡率は、震災前の4年間の同月と比較して、男性で2.64倍、女性で2.46倍も上昇していた。この研究では、津波による溺死や地震による圧死など災害による直接死を除外している。東日本大震災直後の1カ月間で、間接的な理由による災害死が激増していたことになる。 では、どんな理由で亡くなっていたのだろう。それは肺炎だ。震災後1カ月間に相馬市、南相馬市では津波以外の理由で165人が亡くなっていたが、このうち47人は肺炎だった。全体の28%を占め、震災前の16%より高い。 肺炎で亡くなった47人のうち、19人の詳細な病歴が入手できた。そのうち17人(89%)で誤嚥が関与していると考えられた。森田医師は「東日本大震災で病院のスタッフが不足し、十分なケアが出来なかった可能性があります。口腔ケアを励行し、誤嚥を予防することが重要です」という。 その後、熊本地震、能登半島地震でも誤嚥性肺炎の増加は確認されている。被災地支援にあたる医師や看護師にとって、誤嚥性肺炎の予防は最も重要なポイントだ。誤嚥性肺炎以外にも、浜通りでは、高血圧・糖尿病の悪化や心筋梗塞・脳卒中の悪化が確認された。