富士ソフト買収で飛び交うKKRとベインの奇手奇策、会社の頭越しに前代未聞の手法を駆使
むろん、ベインがTOBに乗り出すかは未知数だ。ベインは実施の条件として、「金融機関からの資金調達にメドがつく」「資産査定に問題がない」「非公開化後の方針をめぐり富士ソフトの経営陣と意見が一致する」などを挙げている。ベインがTOBを見送ればボールは再びKKRへと移り、2回目のTOBを経て富士ソフトを非公開化する。これが3つ目のシナリオだ。 ■ベインによるTOBにはハードルも 実際、ベインによるTOBが成立するハードルは高い。会社側がベインへのTOBに賛同するためには、すでに表明したKKRのTOBへの賛同を撤回するか、両方のTOBへの応募を推奨する必要がある。
また、ベインは約15%の株式を握る富士ソフト創業家との間で交渉を進めており、一定割合こそ確保できる見通しだが、一足早く32.68%以上の株式を押さえるKKRは、ベインのTOBには応じない意向を示す。待ったをかけたことでTOBを仕掛ける時間こそ稼げたベインだが、非公開化を実現する道のりは平坦ではない。 富士ソフトがKKR・ベインいずれの手に渡ろうとも、その結末は釈然としない買収劇となりそうだ。 KKRが非公開化を果たした場合、ベインによるTOBを支持する創業家との関係構築が課題になる。複数の関係者によれば、創業家との交渉窓口は富士ソフトの坂下智保社長に一任されており、KKRが直接接触することは最後までかなわなかった。
創業家の持ち分はスクイーズアウトによって強制的に買い取られるものの、資本関係がなくなった後も会社への影響力は残りうる。なぜKKRではなくベインを支持していたのか、真意を測りかねたままの非公開化には一抹の不安がよぎる。 ■問われる企業買収指針との整合性 ベインが非公開化にこぎ着けた場合は、手続きの正当性が問われる。進行中のTOBに対抗提案を仕掛ける事例は珍しくないが、ベインの場合は正式な提案ではなく、本当にTOBに踏み切るかは不確定な「予告」にとどまる。