超希少疾患と診断されたわが子 孤独と不安を乗り越えるため自ら患者会を作った母親の思い
わが子の病名が判明した。「バイン症候群」。聞いたことのない名前だった。 【写真】ただ1人のための薬を作りたい…「希少疾患」に最新の医療技術で挑む 多くは遺伝子の異常、重い症状に苦しむ家族や患者にどう応えるか
日本に患者はいる?どんな症状が出る?何に気をつければ良い?治療法はある? 圧倒的に不足する情報、似た境遇の人が近くにいない不安…。悩む母親がたどり着いたのは米国で精力的に活動する患者会だった。「日本でもきちんとした情報を得て交流できる場を作ろう」。母親はそう決心し、自ら患者会を立ち上げた。少しずつ仲間を増やし、情報を伝え、交流する。超希少疾患の患者や家族が支え合う活動を始めた。(共同通信=岩村賢人) ▽「HNRNP関連遺伝子」に変異 2023年11月、大阪府豊中市の認定こども園「北丘聖愛園」。鈴木希ちゃん(当時3歳、現在4歳)が、ホールの舞台に座り、ピアノの伴走に合わせて頭を揺らしながら、手で床をたたいていた。発表会の練習だ。時折、隣の子を見て笑顔を見せる。 「舞台の下に下ろすから、のんちゃん、そこからは自分で動いてね」。練習が終わると、先生が呼びかけた。下ろしてもらった希ちゃんはその場で座ったままニコニコしている。先生は「おいでー」と声をかけ続けていていたが、やがて希ちゃんに近づいて抱き上げた。舌をぺろっと出して笑う希ちゃん。「今日はのんちゃんの勝ちだねー」と先生も笑った。
希ちゃんは「HNRNP関連遺伝子」に変異が生じて起きる病気の一つ、バイン症候群だ。大阪母子医療センターの岡本伸彦研究所長によると、HNRNP関連遺伝子は、DNAからメッセンジャーRNA(mRNA)を経て、タンパク質が合成される過程で働く。変異があると、知的障害や精神、言葉、運動能力などの発達の遅れ、てんかん、心血管系の異常などさまざまな症状が出る。症状の種類や程度は患者によって異なる。 関連する遺伝子のどれに原因があるかで主に6タイプに分かれ、それぞれ世界に数十~数百人の患者がいると推定されている。バイン症候群はHNRNPH2というタイプを指す。 希ちゃんの場合、座ったり、「ずりばい」で移動したりでき、「喃語(なんご)」という赤ちゃん言葉をよく発する。手で何かをつかむ動作はうまくできる時もあれば、できない時もある。理学療法や言語聴覚療法には定期的に通っているが、医療的なケアはしていない。