佐藤信介 監督が語る 長い旅の終わり『キングダム 大将軍の帰還』
長い旅の終わり、その寂寥感
池ノ辺 今回は、第1作から始まったこのシリーズの最終章、一つの集大成になるわけですが、ここまでやってきていかがでしたか。 佐藤 終わってみるとまさにあっという間でした。やっている時は、大変なのも含めて日々の業務というかルーティーンみたいになってましたね。次々にやってくる障害物を避けたり、切ったり、叩いたりです(笑)。「大変だよ」と言うのもルーティーンで、もちろん実際大変は大変なんだけど、大変だからやめたいとは誰も思っていなかったと思います。 池ノ辺 監督も映画みたいに戦っていたわけですね(笑)。 佐藤 そうですね。戦って、もがいてました(笑)。よくわからない問題がいっぱい起こって、「またか」と思いつつも、それを解決していく快感みたいなものもあったり。だから意外とその大変さも含めてずっと楽しんでいたのかなと思っています。 池ノ辺 撮影も色々大変だったんですよね。 佐藤 撮影に関しては、いろんなことがあったね、という思い出というか、いろんな冒険をしたなと、まさに冒険というのが相応しいような数カ月でした。最後の素材撮りも含めて全体で1年半くらいかけて撮ったんです。その最中は「長すぎる、まだ撮ってるの?」という感じではあったんですけど、今は長い旅が終わったという爽快感ですね。そうしてこの4作目で、「監督、もう直すところはないですね」と聞かれて「ないです」と言ったのが最後、完成の瞬間です。 池ノ辺 寂しかったですか。 佐藤 寂しかったですね(笑)。できればもうちょっと浸っていたいという感じがその時になって‥‥。 池ノ辺 日本全国、全世界の人が作品を観るわけですから、浸っている暇はないですね(笑)。 佐藤 いつも完成すると思うんですよ。それまでは自分のコントロールの下、というとおこがましいですが、自分とスタッフで変更できる状態にあります。それが完成に近づくにつれ、一つずつ、「もうこれは変更できない」という段階を経ていくわけです。それでも最後まで、音響作業中は、音の変更はまだできる。完成間際でも、何日か前ならこのCGをちょっと直す、というのもできないことはない。まあ、やりすぎると怒られちゃいますけど(笑)、でも「これで完成」となるギリギリまでは、自分たちのものという感覚があるんです。 でも完成すると、「これはもうお客さんたちのものだ」という気が僕はいつもするんです。ずっと関わり続けてきたけれど、やっと自分の手を離れて人の手に渡ったと。あとは皆さんに楽しんでもらいたいし遊んでもらえたらと、そう思っています。 池ノ辺 長い旅を一つ終えた監督に質問です。監督にとって映画ってなんですか。 佐藤 単純に言えば、映像と音によって作り出す、時間と空間かなと思います。あと、僕にとって映画は、 “そこでしか会えない人たちと会う場所” という感覚が子どもの頃からありました。だから、観終わった後に、もちろん「よかった」という感想もいいんですけど、僕の一番の理想をいうと、「ああ、この人たちにもう会えないんだな」という寂しさを感じるような映画が最高だなと思う。それはけっこう昔からそういうところがあります。「悲しすぎる、もうあの人たちはいないんだ、映画の中でしか会えない、どこにいっても会えない」と思ってもらえるような映画を作りたい、という思いもずっとありました。ですから、この『キングダム』で、まずは「これでもうみんなに会えないんだな」という寂寥感、これをぜひ味わってほしいですね。 池ノ辺 監督の集大成を、ぜひ多くの方たちに劇場で観て味わってほしいですね。
インタビュー / 池ノ辺直子 文・構成 / 佐々木尚絵