ラグビー日本代表が抱える7番問題
収穫は「経験」と「結果」で課題は「強さ」と「速さ」か。エディージャパンの春のシーズンが23日のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)のアメリカ代表戦を最後に終了した。38-20で制して有終の美を飾ったが、何よりエディー・ジョーンズが就任後2年目のシーズンにおいてのクライマックスは15日、東京の秩父宮ラグビー場で2万人超のファンの前で2年連続欧州王者のウェールズ代表に勝ったゲームだろう。ウェールズのメンバーを考えると無条件に金星と書くことに気は引けるが、最後の8日間にハイライトはあった。ウェールズ代表を23-8で下してからわずか4日後、雨中、愛知の瑞穂ラグビー場で、カナダ代表に16-13で勝った。そして23日のアメリカ戦では、過去2戦と人員をあまり入れ替えずに白星を得たのだ。3つのテストマッチ(国同士の真剣勝負)をほぼ固定メンバーで制した。タフな日程を乗り越えた体験に加え、このメンバー選出マネジメントにも意味があった。 スタンドオフを務めた立川理道はこう振り返る。 「1人ひとりの特性がわかってきた。誰かが『こう』動いたら自分は『こう』というのは、形を覚えるだけではなく、積み重ねでしかわからない。辛い中、基本的にメンバーが変わらずに動けたのは大きかった。ワールドカップに向けていいリハーサルになったと思います」 W杯でも、今回と同様なスケジューリングが組まれるとされる。過密日程下で連勝、成長できたこの春の成功体験は、きっとジャパンの財産になるだろう。これが「経験」という収穫の実相だ。また、相手が控え主体だったとはいえ、世界的強豪国のウェールズから勝ったという「結果」は意義深い。遡れば、スコットランド、ウェールズからいずれも100点前後も取られた2004年秋の欧州遠征以降、日本協会は強い相手との試合が組みづらかったのである。協会関係者は今なら、相手へのメリットを示しながらマッチメイクの交渉ができよう。 もっとも、W杯で「世界トップ10」を目指す日本には、まだまだ改善点がある。ジョーンズHCは、ウェールズに勝った時点ですでに言っていた。「もっと強く、もっと速くならなければいけない」。スペースに駆け込むボール保持者、接点にサポートする選手、敵の攻撃を止めるタックラーとも、より低くて速いコンタクトをする必要がある、と。指揮官は、「強さ」と「速さ」を課題に挙げる。そして、それを紐解くと、「7番の問題」が浮き彫りになってくる。 「7番の問題」とは何か。 今のジャパンは、選手が献身的に動き回る攻めを看板とする。そのためパワーよりも運動量を重視するのだが、理想の実現には接点での鋭い押し込みが求められる。シャープな肉弾戦があれば相手は自ずと後退し、日本代表の連続攻撃がより効果的になるからだ。その接点のプレーで重要となるのが、フランカーである。 一般論ではフランカーは、機動力重視のオープンサイド(背番号7)、力感重視のブラインドサイド(背番号6)に役割分担がなされる。しかし昨春のPNC、環太平洋諸国の力自慢を向こうに、日本の知性あるオープンサイドフランカーが再三、接点から弾かれた。結果、指揮官が「いまのジャパンにはオープンサイドはいません。そこはチーム全員でカバーします」と言うに至ったのである。 昨夏から元総合格闘家の高阪剛をスポットコーチに招き、世界の大男にタックルしまくった同氏から、相手に近づくや体勢を下げる「ダウンスピード」の重要性を学ばせている。しかし、体得には「時間がかかる」とジョーンズHCは言う。4月から5月にかけ、格下のアジア諸国相手に担ぎ上げられるランナーが散見されていた。25日に開幕した今季のPNCでは、トンガ代表、フィジー代表などの力自慢を相手に2連敗した。 指揮官は「国内で、高い姿勢で通用している(大型の)選手が多い」からだと説明する。低い姿勢でのプレーを得意とするオープンサイドフランカーのエキスパートを、パワー不足だからと代表から外しているのだ。 ジョーンズHCのサントリー監督時代に急成長したオープンサイドフランカー、佐々木隆道らは代表から外れ、筋肉量のみをアップさせた上での体重100キロ超えを目指している。一方、本来はブラインドフランカーやナンバーエイトを務める菊谷崇副将、ヘンドリック・ツイらが、「ダウンスピード」のマスターに取り組んでいる。 南半球最高峰リーグのスーパー15でプレーするフッカー堀江翔太は、終盤にハードさを欠いたかもしれぬアメリカを制した際、接点際での「強さ」と「速さ」に関する課題を何度も口にしていた。 日本代表は今秋、11年W杯王者のニュージーランド代表と激突する。夏に組まれる合宿や個々の所属先での練習、何より日本が誇る「低い」オープンサイド勢のパワーアップなどで、今ある壁をぶち破りたい。2015年ワールドカップ(W杯)に向け、エディジャパンはは、さらなるチームのブラッシュアップを図らねばならない。 (文責・向風見也/ラグビーライター)