センバツ高校野球 宇治山田商、競り勝つ 全員野球 粘り強さ発揮 /三重
第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)の大会第4日の21日、宇治山田商は1回戦で東海大福岡(福岡)と対戦し、5―4で競り勝った。宇治山田商が甲子園で勝利するのは2008年センバツの初戦・安房(千葉)戦以来、2度目。持ち味の粘り強さを夢舞台で発揮し、16年ぶりの白星を飾った。2回戦は大会第7日(24日)の第3試合で、中央学院(千葉)と対戦する。【原諒馬、長岡健太郎、藤倉聡子】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 主力選手が交代するアクシデントが相次いだが、全員野球を貫き、接戦をものにした。 右翼手の阪口諒真(2年)が体調不良で、試合直前に中瀬琥斗紀(同)に変更。三回表に中川春輝(3年)が頭部に死球を受け、六回裏には郷壱成(2年)が足をつって選手交代した。 主将の伊藤大惺(3年)の「初回から挑戦者の気持ちで向かっていきたい」との意気込み通り、序盤から試合が動いた。二回表、左前二塁打で小泉蒼葉(2年)が出塁すると、泉亮汰(3年)が犠打、郷が犠飛でつなぎ、先制点をもぎ取った。アルプス席の郷の父秀憲さんは「今までの集大成を見せてくれた」と喜んだ。 四回表、郷と急きょ出場した中瀬の2連打で勢いに乗ると、相手の失策に乗じて3得点し引き離した。中瀬は盗塁も成功させ「チームのために、足の速さなどの持ち味を発揮できた」。父陽介さん(47)は「堂々としていて、この1年で本当に成長したな」と目をうるませた。 五回裏、東海大福岡が同点に追い付くと、アルプス席は、昨秋の東海大会準決勝(豊川戦)のサヨナラ負けの悪夢がよみがえり、重苦しい空気が広がりかけた。だが強心臓のエース、田中燿太(3年)が踏ん張る。「思い切ってやろう」と焦らず、その後は失点しなかった。六回、郷が四球で出塁すると、加藤一路(2年)の左前適時打で再び勝ち越し、相手に流れを渡さなかった。 八回裏、中村帆高(3年)が登板。スタンドは「行け、帆高」「踏ん張れ」との大声援に包まれた。九回裏、無死一塁、フルカウントに持ち込み、三振を奪う。相手走者が二塁への盗塁を試みると、捕手の小泉が「投手を楽にさせたい」と好送球で2死。3人目の打者の邪飛が泉のグラブに収まると、緑色のメガホンが大きく揺れ、アルプス席の野球部員は「本当に校歌が歌えるんだ」と叫んだ。 試合後、村田治樹監督は選手の粘りを評価し、「見栄えは悪くても、チームの力はついたかな。やってきたことを甲子園で体現してくれた」と感極まった。 ◇OB16年ぶり校歌 ○…「16年ぶりに甲子園で校歌を歌えた」。2008年のセンバツに出場した宇治山田商野球部のOB9人は肩を組み、そう言って涙を浮かべた。当時のエース、平生拓也さん(33)は安房(千葉)との初戦で当時のセンバツ史上最速の153キロを記録。「緑色の山商カラーの人たちの声援に、元気づけられた。今度は自分たちが選手の力になりたい」と声援を送った。主将だった北川直峰さん(33)は「落ち着いてプレーできていた」と後輩を高く評価した。 ……………………………………………………………………………………………………… ■ズーム ◇秋の悔しさバネに成長 宇治山田商 中村帆高投手(3年) 八回裏に登板し、1点のリードを守り切り、勝利につなげた。 「この試合を自分が締める」という気持ちで、先発の加古真大(2年)と田中燿太(3年)からマウンドを引き継いだ。立ち上がりはストライクが入らず焦りもあったが、「落ち着いて」という声が野手から聞こえて、楽になった。縦のスライダーで2者連続で見逃し三振を奪い、続く打者も右飛。相手チームの主軸を3者凡退に抑えた。 迎えた最終回。無死一塁の場面で9番の投手・佐藤翔斗(3年)をフルカウントから三振に仕留める。最後の打者は邪飛に打ち取った。 八回裏に勝利を大きく引き寄せたスライダーだが、昨秋はこの制球に苦しんでいた。東海大会ではエース番号を背負いながら2回戦で1回しか投げられなかった。悔しさをバネに冬の間、投球練習に打ち込んだ。高めに入ってしまうと打たれるため、低めのスライダーを安定して投げられるよう、練習を重ねた。 東海大会でサヨナラ負けした反省から、終盤の粘りを強化してきたチームで、村田治樹監督から「半年でかなり成長した」と締めを託された。期待に応えられ「この冬、がんばった成果が出てうれしい」。宇治山田商初の甲子園2戦目の勝利に向けて、大きな自信をつかんだ。【原諒馬】 〔三重版〕