パルコ川瀬賢二社長 「一番売れるものばかり選んでしまうと金太郎飴になっていく」
「一番売れるもの」は意識しない
―百貨店や商業施設は地方を中心に淘汰の時代を迎えています。 我々の店舗でも、仙台パルコは東北地方で、広島パルコは中・四国地方で、名古屋パルコは東海地方で、すごく強いお店だったんです。学生時代から社会人になり、ファッションを中心にパルコでお買い物をして初めてクレジットカードを作るというローテーションができていました。しかしコロナ禍で広域の行動が一旦途切れてしまった。この3年間で、お客様との関係が希薄になってしまったと感じています。 ―これから再構築すれば回復は見込めますか? 一部、回復が見込まれるところもありますが、日常着はECや都心まで足を運ばずに郊外型のモールで買い物を楽しまれる方も増えているので一概には言えません。 ―地方店舗はかつてファッションに求心力があったがテコ入れが必要になった、ということですね。 そうですね。ファッションを強くするためにどれだけの面積が必要なのか、カルチャーや雑貨、フードに分解して再構築していくべきかといったことも含めて検討していきます。 ―ファッションにはこだわらない。 たとえば、仙台パルコは特産品を売っている売り場がすごく面白いんですよ。この事例を見ると、やはり「そこでしか買えないモノ」と「ここでしか味わえない体験」が重要なんだなと感じています。グローバリズムとかインターナショナルが進めば進むほど、どこにでもあるような施設には行かなくなってしまう。 先日も、海外で大きな商業施設を見てきたんですけど、すごくラグジュアリーだし快適ですが、文化の匂いがしなかったんです。大きくて効率的で心地が良くても、なんとなく心に引っかかるものがない。「ここに来ている」という実感が湧かなかったんですよね。我々の地方店舗も、もしかしたら“東京っぽさ”で構成してしまっている部分があるのかもしれません。ローカリズムをちゃんと足して魅力を作っていく。今後のリニューアルは小手先ではなく、時間をかけてビルフレームを変えていこうと思ってます。 ―いまの時代に求められる商業施設の姿とは何でしょうか。 渋谷パルコや心斎橋パルコが実績で証明するように、商業施設は体験価値が大事ですね。ただし、リーシングするときに「一番売れるもの」ばかり選んでしまうと、それは金太郎飴になっていく道筋。「一番売れるもの」はあまり意識しなくていいと考えています。 ―会社としては、売り上げは重視したいところなのでは。 もちろんそうです。ですが、東京で売れているものを地方店舗に持ってきても、それを皆さんが望んでるわけではない。その街にある理由みたいなものをちゃんと表現できれば、支持は集まると思っています。お客様とのさまざまな接点を作り、体験価値の高い世界をいくつ集められるか。パルコにしかないもの、パルコならではの組み合わせ、みたいなところを追求していきたいですね。 ―津田沼パルコ、新所沢パルコと閉店が続き、来年には松本パルコが営業を終了します。 大分(2011年1月閉店)や岐阜(2006年8月閉店)、千葉パルコ(2016年11月閉店)などは、我々が最初にパルコを展開した地方都市でした。その頃は地方都市も日本経済全体も上げ潮だったので、 パルコを含む商業施設の進出が相次ぎました。地域の経済や人口動態そのものの変化の中で、パルコに限って言えばある一定の役割を終えたと思っています。それだけではなく、施設の老朽化に伴う改修工事も必要になります。津田沼、新所沢、松本の店舗も、開業当初の数十億円の投資でここまでの役割を果たしました。この先、何十年もの事業計画を見据えた結果として閉店を判断したのであり、赤字で苦しくて仕方なく撤退しているわけではないんですよ。