九州豪雨後に増えた「無医地区」、過疎に拍車も…浸水で診療所の閉鎖・移転相次ぎ高齢者ら「生活に不安」
オンライン診療で心音確認
八代市の「峯苫医院」は坂本町に診療所を構えていたが、豪雨で被災し、市中心部に移転した。峯苫ゆき子副院長(58)は「医院があった場所は浸水想定が約10メートル。ほかに建てられる場所も、全て何らかの災害の恐れがあった」と明かす。
こうした中で、峯苫医院は地域を支えようと、坂本町の公民館などに看護師を向かわせ、医師が患者を遠隔で診る「オンライン診療」に取り組んでいる。デジタル聴診器を使って心音を確かめるなどする。
9月末には3か所を巡回。診察を受けた高齢者(82)は、画面越しに「体調は大丈夫そうですね」と声をかけられ、「よかですよ」と笑顔を見せた。
住民たちは「先生と話せると安心感がある」と口をそろえる。峯苫副院長は「採算が良くなくても、誰かのためになっているのであれば、できることを続けていきたい」と語る。
心のケアに取り組む団体もある。坂本町で被災した高齢者らの健康観察を続ける一般社団法人「看護のココロ」代表理事の蓑田由貴・看護師(36)は「自宅にこもりがちになったり、交流が少なくなって笑顔が減ったり、心の状態は予断を許さない。高齢化が進み、加齢に伴う筋力や認知機能の低下も懸念される」と訴える。
室崎益輝・神戸大名誉教授(防災計画)は「生活再建を果たすうえで、地域医療の充実は一丁目一番地。健康上の悩みや不安にどう応え、暮らしを支えていくのか、行政は知恵を絞るべきだ」と指摘している。
東日本大震災では4000以上の医療施設被災
2011年の東日本大震災では岩手、宮城、福島3県を中心に4000以上の医療施設が被災。厚生労働省は翌年、医療機関に業務継続計画(BCP)などの作成に努めるよう求める通知を出したが、十分な対策は難しい現状もある。
1月の能登半島地震では26施設で一時、断水などの被害が出た。水不足や機器の損壊が影響し、石川県では最大7施設で人工透析治療が受けられず、通院患者360人は被災地の外への搬送などを余儀なくされた。
◆無医地区=半径4キロ以内に50人以上が住んでいるが医療機関を容易に利用できない地域。厚生労働省によると、2022年10月時点で全国に557か所あり、九州・山口・沖縄は約2割(124か所)を占める。