マッコウクジラは例外?哺乳類、海での大型化進化に限界があった―最新研究
地上にはゾウやキリンなど、人類と比べてはるかに大型の動物がいます。しかし、海に目を向けるとマッコウクジラのように人類の日常では考えられないような巨大サイズにまで進化した哺乳類が泳いでいます。 なぜ、海で暮らす哺乳類は、大型化が可能だったのでしょうか。そしてこのまま進化を続けるとさらに巨大になることがあるのでしょうか。先月末に発表された化石と現在の哺乳類を分析した新たな論文について、古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が報告します。 ----------
巨大化のネガティブ要素
「大航海時代」という言葉の響きが個人的に好きだ。この言葉には大望とともに何となく未知の領域への憧憬が含まれていないだろうか。チャールズ・ダーウィンは20代の頃、5年近くもの長い間ビーグル号に乗り、海洋をまたぎ世界各地における科学的フィールド調査に従事した。そして、小説「白鯨」(1851年:ハーマン・メルビル著)の中で、執念の鬼と化したエイハブ船長は、生死の境をさまよいながらも海洋で「モービー・ディック」とよばれる巨大なクジラの姿を追いつづける。 はるか彼方に位置する海洋の果てや真っ暗な海の底には、いまだ我々の知らない巨大な何かが潜んでいるはずだ。子供心にこの白鯨のストーリーに私は強く惹きつけられるものがあったことを、今でもはっきり覚えている。 この小説をもとに、「白鯨との闘い(In The Heart of the Sea)(2015)」という映画も公開された。CGで合成された巨大な白鯨は、まさしくモービー・ディック。大きな航海用の帆船と並行して堂々と泳ぐ巨大鯨のその迫力には、なかなか他の生物には見られない圧倒的・魔性的なものがある。 モービー・ディックのモデルとされるこのクジラは、マッコウクジラと一般に呼ばれる。学術名は「ファイセター・マクロセファルス(Physeter macrocephalus)」。属名は「潮を前方に高くよく吹き出す」独特の習性からつけられた。種の名前は「長く大きな頭」という意味で、このクジラのいで立ちを端的に表している。 体長はオスの方が大きいが何と「18メートル」に達する個体も知られているそうだ。この数値は6階建てのマンションの高さに相当する。「機動戦士ガンダム」のモビルスーツも同じくらいの大きさらしい。 脊椎動物種の個体として、我々の常識を超えてとにかくひたすらに巨大な存在といえる。 生物全般にとって、巨大化することで得られる利点はいくつか挙げられる。例えば、外敵から身を守るのに役立つ。捕食者にとって大きいものを襲うのはやはり物理的にも、心理的にも容易ではない。空腹をかかえた百獣の王ライオンといえども、成年に達した大きな象を襲うのはかなりのリスクが伴う。時には命を失うケースもあるだろう。 季節的な渡りや食料をもとめての長距離移動も、大きな個体の方がエネルギー面において効率的だ。モービー・ディックのゆったりとした大きな一ストロークは、イワシの小さな尾ひれによる何百回分もの推進力に匹敵する。大西洋を横断する旅行では、タイタニックのような大型船の方が、一人乗り用のカヌーより(おそらく)より快適なはずだ。